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つんく♂が手がける現代版『ASAYAN』とは?「僕の想像を超えるアイドルはネットから生まれる」

 稀代のプロデューサー・つんく♂と、気鋭のITクリエイターであり、AKBメンバーを始めメジャーアイドルも注目する、ライブ動画ストリーミングプラットフォーム『SHOWROOM』の代表を務める前田裕二から、新たな才能が世に送り出される。7月にはつんく♂が新しいカルチャーや人気者を発掘・プロデュースするプロジェクト『歌の♪原宿ホコ天』が誕生した。SHOWROOMを利用して人気を伸ばすアイドルも多い今、二人が見据えるこれからのエンターテイメント界とは?

作曲家や文筆家のように“アイドル家”がいる

ーーいま、「アイドル」という言葉がより広義なものになってきていると思います。その中で、お二人が考えるアイドルとは?
つんく♂僕は、自分が手掛けてきた人たちをアイドルとは思っていないんです。世間はそう呼ぶかもしれませんが僕が作っているものは作品であって、アイドルを作っているという意識はありません。個人が「自分はアイドルです」と言うのは、もちろん否定はしません。ただ、そこをゴールにするのは違うのかな。僕の中で、アイドルとは結果論。ビートルズ、美空ひばりさん、マイケル・ジャクソンも、活動の結果として本当に誰もが認めるスーパーアイドルだったのは確か。

前田裕二なるほど。アーティスティックなつんく♂さんらしい考え方だなと思いました。いま、今日時点の僕にとって、アイドルとは、「身近な偶像」です。アイドルは、もともと英語では、偶像崇拝の対象という意味。それに沿うように、本来アイドルというものはそもそも身近な存在ではなかったはずです。でもいまは、秋元(康)さんのプロデュースにより、“会いに行けるアイドル”という、一見矛盾をはらんだ概念が生み出されました。本来ならば偶像であるアイドルに会いに行けるシステムを作り、濃いファンを生み出したわけです。

 僕が手掛ける『SHOWROOM』でも、例えば、アイドルが配信中に急に画面からいなくなったと思ったら、その間、お手洗いに行っていたりします。一般人同様にお手洗いに行く姿を見せたら、もはや偶像ではないですよね(笑)。しかし、こうした日常をありのまま見せることで、親しみやすさを演出し、濃いファンをつけていく人が多いんです。仮に、純粋に「偶像的なアイドルになること」がゴールだとしたら、そんなことしないですよね。自分を偶像として捉えてお高くとまるのではなく、あくまで人気を得ること、ファンを増やすこと、ファンの方に還元していくこと。そこに対しての思いが強い表現者が増えていると感じており、そうした人たちを含めて、広義的に「アイドル」と呼ぶ社会になってきています。自分から、「アイドル」と自分自身を定義する人の中にも、従来のアイドルのイメージとは懸け離れた泥臭い活動を厭わない人が増えていますよね。

つんく♂ただ、自称で「私はアイドル」と言うのはいいんじゃないかな、と思う。アイドルという職業はあってもいいよね。

前田裕二わかります。よく「アイドルの民主化」と言っているんですが、『SHOWROOM』では50歳の女性でさえアイドルになれるし、実際に存在しています。演者とファンの関係性を成立させるモデルが、誰に対しても開かれているんです。

つんく♂いわば「アイドル家(か)」なんですよ。作曲家や文筆家みたいに、「アイドル家」をやっている。

前田裕二面白い!「家」という文字をつけるということは、もはや、アイドルが一つの職業として成立している、ということですよね。

つんく♂そう。だから「私はアイドル家で月50万円稼いでいる」というセリフが成立する。プロだからこそ、「トイレに行かないし、恋もしません」という宣言がフェイクでもいい。それでも好きだという人がいるわけで、プロレスファンがプロレスラーの流す血のりを、あれは血だ!と信じることと一緒だよ(笑)。

コアコンテンツをマスコンテンツにする方法

ーー作曲家なら曲、文筆家なら文章を売っていますが、「アイドル家」の商品とは何でしょう?
つんく♂よくモーニング娘。に「君たちは焼きそば屋さんと同じなんだ」と講義をしました。焼きそば屋さんが「今日はちょっと焦げちゃいました」と言ってしまったら、お客さんは商品を買わないでしょう。

 アイドルでも、取材でレコーディングはどうでしたか?と聞かれて、あまりうまく歌えませんでした、と答える人もいる。それはプロではない。
例えば、着ぐるみは汗をかかない、そして中にいる人も絶対に表立って暑いとは言わない。あれこそがプロです。要は演じているわけですが、そこに対してお客さんが対価を払ってくれるのであれば、成立しますから。

前田裕二プロであるからには、「見られる意識」って重要ですよね。まず最初に、「こういう風に見られたい」というビジョンを設計して、そのために頭をひねって、努力をすること。すなわち、セルフプロデュースがより重要性を帯びてきています。「こういう風に演じたらファンが喜ぶだろう」という考えのもと、自分を客観的に見て仮説検証を回す。こういった能力が求められていると思います。その力の強い人が人気アイドルになっている、というだけの話ですよね。AKB48の指原さんなど、その最たるものだと思っています。

つんく♂プロレスラーと一緒で、自分の中に長いストーリーを構築しているんだね。

ーー現在のアイドル界はたくさんのストーリーが構築されていて、様々なタイプのアイドルが出ているように思えます。そんな中、プロデューサー視点ではどのようなプロデュースを心がけていますか?

つんく♂ニッチな世界でウケるマニアックな作品は、熱狂的なファンができますよね。制約を気にせず作るから、作品も強くなるし。そこに関しては、僕らのようなプロはアマチュアに叶わないと思う。僕らがやるべきことは、まずは多数の人にとって入口となるような、6〜8割の人が納得してくれる作品を制作することです。

 僕自身は常に最高の作品だと思って作っているわけですが、とはいえ世の中の人に向けて作っている大前提のなかで、ある程度全体が見えていないとプロのプロデューサーとしては成立しない。

前田裕二反対に僕は、「ニッチな世界でウケるマニアックな作品」から入ることが大事だと思っています。初期はメジャーには響かなくていい。100人が熱狂すればいいと思っています。100人が熱狂しているコミュニティが100個あるのか、1万人の熱狂しているコミュニティが1個あるのか。人数は同じですが、前者のほうがビジネス的には筋が良いと考えます。なぜなら、現代のエンタメ業界において、メジャーなヒットコンテンツを生み出す再現性が下がってきているから。

 でも、100人の濃いファンがついているエンターテイナーを作れと言われたら、作れる可能性は格段に上がる。『SHOWROOM』では無限にコンテンツが作れるので、どれだけマニアックなものでも配信可能です。例えば、ひたすら切手について熱く語る人がいてもいいわけで(笑)、そこに需要があるかもしれない。マニアックでコアな需要をピンポイントで満たすことは、インターネットであれば実現できます。

つんく♂僕もテーブルについて話す人には勝てないからね(笑)。コアな100人に面と向かって、やりたいことで勝負している人と争っても勝てるわけがない。僕のやっていることは、多数のお客さんがいる釣り堀に投網をすることです。一方で『SHOWROOM』はワカサギ釣りのように1つ1つ穴を掘って、そこから釣り上げるシステム。だけど、ワカサギ釣り手法にも可能性もあることを痛感しているからこそ、僕も100人のコミュニティを作ってみたくなった。だから前田くんと『歌の♪原宿ホコ天』をやるんです。

前田裕二まさに。僕らは、局地的に濃い熱量を持ったコミュニティを作ることは得意ですが、それをマスやメジャーに引き上げる装置が必要だと、常々思っていました。俯瞰で見ているつんく♂さんが、『歌の♪原宿ホコ天』で面白そうだなと思ったものをすくい上げてプロの技と掛け合わせることで、『SHOWROOM』のパフォーマーたちを、メジャーコンテンツに引き上げる事も可能だと思うんです。

 『SHOWROOM』をやっていると、街中に可能性が潜んでいるように思えます。例えばタクシーの運転手さんが待ち時間に配信を始めて、そのコンテンツが人気となり、その人が演歌を出したら大ヒット、ということがあるかもしれない。僕もつんく♂さんも、何もないところから“タクシー運転手に演歌を歌わせてみよう”とはなかなか思いつきません。いきなりマスに広がらずとも、面白さの「0→1」、最初の一歩を作れるところが、ネットの面白さです。制約のないインターネットという世界では、マスの世界では見たことのないような新しいクリエイティビティが日々どんどん発揮されています。

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