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バイプレイヤー、ブームの一方で“格差”も?

  • 主役クラスになっても脇役!? ブームを牽引する遠藤憲一、松重豊(右)

    主役クラスになっても脇役!? ブームを牽引する遠藤憲一、松重豊(右)

 松重豊主演『孤独のグルメ』(テレビ東京系)や小林薫主演『深夜食堂』(TBS系)、近藤芳正主演映画『野良犬はダンスを踊る』など、これまでにも深夜ドラマやインディペンデント系の小規模映画などでシブい脇役俳優たちが主演やメインキャストを務める作品は数多くあった。現在も、“おじさま名脇役”たち6人(遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研)を主演にした連ドラ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)が話題になっており、ベテラン脇役俳優たちの演技力、キャラクター性により一層脚光が当たっている。

ベテラン俳優として見せる強面の姿と気さくでひょうきんな素顔のギャップが魅力

 この状況を分析すると、まず“おじさま世代”の俳優は、世代的に人数が多いなかでの生え抜きであり、層も厚いことが挙げられる。その競争のなかを生き抜き今も活躍しているということは、相応の演技力、それに伴う需要もあるということだ。脇役で長く芸能界を生きてきた男たちの円熟のシブみ、かもしだす哀愁、鬼気迫るスゴみから、包容力に富んだ存在感、そしてキャラクターの感情をあぶり出す熟練の芝居など、その魅力を挙げていけばキリがない。

 その一方で、気さくでひょうきんな素顔、親しみやすい人柄、苦節を耐え抜いてきた人間としての大きさなどが、ベテラン俳優として見せる役柄のイメージとのギャップになっており、そこが注目されて“萌え”として発見されているのが今の特長だ。もちろん大人の男の深く濃い味が女性支持の要因になっているのだが、『バイプレイヤーズ』の場合、メイン6人をキャラクター化したLINEスタンプも10代を始め若い世代の間でかわいいと人気になっている。
 こうした今の“おじさま萌え”の一般化の流れを、メディア研究家で多くのエンタメ記事を手掛ける衣輪晋一氏は「『踊る大捜査線』に出演する神田総一朗署長(木村総一朗)、秋山晴海副署長(斉藤暁)、袴田健吾刑事課長(小野武彦)主演の『スリーアミーゴス』(共にフジテレビ系)や、『相棒』の伊丹憲一(川原和久)、芹沢慶二(山中崇史)の刑事コンビのほか、特命係にふらりと姿を現す角田六郎課長(山西惇)らが活躍する『裏相棒』(共にテレビ朝日系)など、スピオンオフドラマのヒットが一役買っている」と分析する。

「ドラマ本編で語れば、“おじさま脇役俳優”たちをメインパーソンとして扱った木村拓哉主演『HERO』(フジ系)の存在も大きい。なかでも象徴的なのが末次事務官役を演じた小日向文世さんの人気で、“脇役のおじさま萌え”は、コアなファンだけでなく、一般視聴者でも楽しむ環境が整ったと言えるでしょう。同じ頃、山崎努さんら出演の獄中ものの映画『刑務所の中』も、“監獄のおじさまたちに萌えるリラックスムービー”として話題になっています。ここ最近では、『半沢直樹』(TBS系)などの吉田鋼太郎さん、『下町ロケット』(TBS系)などの木下ほうかさんといった、濃い人間的な味のあるアラフィフ俳優ブームもありましたが、これらも今のバイプレイヤーブームにつながっていると言えそうです」(衣輪氏)

ブームの一方で“格差”も発生。脇役から昇格した“バイプレイヤー”という新たな存在

 これまでのアラフォー、アラフィフブーム以上に幅広い層の女性人気を得ている『バイプレイヤーズ』だが、その豪華俳優陣にも触れたい。メイン6人のほか、ゲストで登場する俳優たちも竹中直人、椎名桔平、滝藤賢一、眞島秀和など名だたる名優がズラリ。ただし一方で、同じ“バイプレイヤー=脇役”でありながら、これは芸能界全体を見回しても言えることで、プライムタイムでのドラマ作品やメジャー映画は当然ながら、深夜ドラマや小規模映画で主演に着く脇役の顔ぶれも固まってきている。

「こうした“格差”の背景には、売れているバイプレイヤーが主演クラスに格上げされて、実は脇役俳優ではなくなっている現状があります。『脇役に徹してこそのバイプレイヤー』との声も挙がっていますが、そもそも脇役から注目されて主演に登りつめるのは自然な流れ。実力派のおじさまたちがゴールデンタイムの連ドラで主演を張りづらいという現代への風刺やパロディ精神で、脇役=バイプレイヤーという表現をいまだ残しているに過ぎないのかもしれない。そう考えるなら、本来の脇役の意味を外れつつあり、ひとり歩きを始めた“バイプレイヤー”は、新たなジャンルと捉えるのもおもしろいでしょう。そして、もしこの流れが定着していくなら、俳優には“主役”以外に“バイプレイヤー”を目指すという選択肢が加わることになる。芸能界やドラマ、作品はさらなる多様性や豊かさを享受するかもしれません」(同氏)

 『バイプレイヤーズ』では、長年の経験と実績のあるおじさま俳優を主演として布陣することで、普段は連ドラの単なるゲスト出演ではブッキングできなさそうな豪華俳優を呼べている一面もある。このドラマから、バイプレイヤーたちのキャラクター性の強さとその人気ぶり、俳優仲間のネットワークの厚さに改めて気づかされた関係者も多いのではないだろうか。主役、脇役に関わらず“バイプレイヤー”を活かす作品は今後、さらに増えていくかもしれない。
(文:中野ナガ)

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