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RADWIMPS野田洋次郎ソロプロジェクト・illionインタビュー「11年間やってきて今が一番楽しい」

 野田洋次郎(RADWIMPS)によるソロプロジェクト「illion」が、10月12日にニューアルバム『P.Y.L』を発売した。illionは海外での活動を視野に入れたプロジェクトとしてスタートし、2013年3月発売の1stアルバム『UBU』は日本をはじめUK、アイルランド、フランス、ドイツなど9の国と地域で発売。それから約3年を経て、今夏は日本初パフォーマンスとなる「FUJI ROCK FESTIVAL ‘16」に出演したほか、東京、大阪でもライブを行い、新作の発売が待ち望まれていたが、ついにフルアルバム発売となった。RADWIMPSとしても、『君の名は。』サントラが注目を集めている中、ORICON STYLEでは野田にWEB独占インタビューを実施。illionの新作の話はもちろん、現在の野田自身の創作意欲など、様々な話を聞いた。

illionでは自分の音楽的な遊び場をそのまま聴いてもらう

  • RADWIMPS『君の名は。』サウンドトラック(ユニバーサル ミュージック)

    RADWIMPS『君の名は。』サウンドトラック(ユニバーサル ミュージック)

――RADWIMPSとして映画『君の名は。』の主題歌とサウンドトラックの制作、さらに昨年には映画『トイレのピエタ』で主演を務めるなど、とても積極的な活動を展開する中、このタイミングでillionを再始動させた経緯を教えてください。
野田洋次郎(illion) この1年半近く、断続的に映画『君の名は。』の劇伴制作を行っていたのですが、僕にとって、この作業はとても新鮮でした。オーケストラを使ったアレンジなど、今までのバンド・スタイルとはまったく違う形で、自分が持っている音楽的な感覚を表現できて、すごく楽しく、有意義な時間でした。その作業が始まったあたりに、2016年は夏フェスなどでillionのライブをやろうという話が出てきたんです。最初のアルバム(『UBU(2013年)』)では、国内でライブができなかったこともあって、じゃあ、それに合わせて何か新作をリリースができたらいいねということがスタートでした。あと、“MAX/MSP”っていう、トラックメイキング的なアプローチができる音楽ソフトのノウハウをたまたま手に入れていて、それを一度使ってみたいなという気持ちもあって。『君の名は。』の劇伴で、オーケストレーションに関してはやり尽した感があったので、それとはまったく違うアプローチで音楽を作ってみたいということも、大きなきっかけでした。

――2012年にillionの活動をスタートした時には、前年の震災がきっかけだったと公言されていますが、今回は何か外的な要因があったというよりも、いろんなタイミングが重なった結果の再始動だったということですか。
野田洋次郎 そうですね。illionでは、純粋な音楽が鳴らされるべきだなと僕は思っているんです。前回は震災があって、あの時に抱いた感情を、どう音楽に落とし込んで、自分自身がどう次に進んでいこうか、という想いが明確な動機としてあったんですけど、今回は、純粋に音楽的な探求という意味合いが強かったですね。実は先ほど話したように、ライブに向けての曲作りが入口としてあって、そのライブは「FUJI ROCK FESTIVAL’16」と、東京と大阪での2本のツアーだけだったので、当初は4曲程度のEPを考えていたんです。でも作り始めたら、すごく楽しくなったんですよ。フィジカルな楽器を使うことなく作り始めて、それが僕にとって、ものすごく新しいことでした。それで、当初は夏にリリース予定だったんですが、曲数を増やしてアルバムにすることが決まって、結果、この時期でのリリースになりました。

――従来のRADWIMPSの楽曲や、『君の名は。』の主題歌や劇伴とillionとでは、制作のスタンスや、メロディが生まれてくるきっかけには違いがあると思うのですが、どんなところですか。
野田洋次郎 音楽が生まれてくる“場所”がまったく違うんです。RADWIMPSの場合は、何を伝えるのか、歌詞で何を言うのかを思考します。1曲の完成品として、物語だったり、ポピュラリティを持つべきだと思うし、何かしらひとつの責任を背負った状態でRADWIMPSの音楽は鳴らされるべきだなと考えていて、その中で、楽しみを見つけられるんです。illionはその真逆にあって、まずはトラックを作って、そこから歌をどうしようかと、その場で生まれた言葉を乗せていくんです。だから、あまり思考せずに、自分の音楽的な遊び場をそのまま聴いてもらう感じです。それが僕にとって、すごく気持ちいいもので、これは聴く人にとっても、気持ちいいものになるんじゃないかと思いながら作りました。

『君の名は。』サントラは100%映画に寄り添った作品

  • 10月12日に発売されたillion『P.Y.L』

    10月12日に発売されたillion『P.Y.L』

――音楽的にも、RADWIMPSのバンドサウンドとは、まった異なるものですよね。
野田洋次郎 ただRADWIMPSの曲も、音楽的な形式から逸脱している部分はたくさんあって、それは僕にとって、挑戦でもあるんです。歌詞においても、書いた前と後とで、違うことに気付いていたいし、違うことを理解したい。自分はこんなことを思っていたのかと気付けたり、こんなことが言えたという新たな発見が欲しくて、そのために苦悩することもいっぱいあります。だから、ひとつの曲を完成させるために、“たどり着いた感”がすごくある。音楽的にも、言葉としても、新しい枠組みを作れたとか、新しい感覚が得られたなという、山を登っていくのに近い作業です。だけど、illionだと、そういう感じはまったくなくて、寝ている間に見た夢を言葉にしてみましたという感覚というか。むしろ、どれだけ無意識でいられるかという気持ちで作っていました。スタジオで、15分前に作り始めたトラックに、その場で浮かんだ言葉をそのまま歌っているので、いつ歌詞が生まれたのかも明確でないような状態で、いわゆる仮歌のように歌を録っていきました。普段だったら、歌詞をプリントアウトして、それを読みながらレコーディングするんですが、今回は、そういったこともまったくやらずに。

――そうしたアプローチもあって、まるでゆっくりと夕陽の彩りが移ろっていくのを眺めているような楽しみかたができる音楽になっていますね。
野田洋次郎 基本的にループミュージックですからね。あとRADWIMPSの場合は、曲が流れてきた瞬間に、意地でも聴き手の耳を奪ってやるというか、聴く人の意識を絶対に音楽に向けさせたいという想いがあるし、そういう音楽を作りたいと思っているんです。でも、illionに関しては、特に『P.Y.L』は僕自身そうだったんですけど、何度も聴きながら寝たりしたんですね。それが、とても心地よくて。初めて、眠りながら聴ける音楽を作れたというか、そういう“体温”を持ったアルバムになったと思っています。

――体温感という点では、従来のRADWIMPSの楽曲と、『君の名は。』のサウンドトラックには、大きな違いはありましたか? それとも、共通項の多い作業でしたか?
野田洋次郎 最終ジャッジが僕ではないという点は、一番分かりやすく、これまでと大きな違いでした。そして、それがすべてでしたね。だから、自分の中から生まれる音楽とは、まったく違うものになるんですけど、それを作るのは僕たちだという、非常に不思議な感覚での制作でした。その一方で、これまで人のために直接的に音楽を作るということがあまりなかったので、そこは面白かったですね。

――『君の名は。』のサウンドトラックは、映画音楽として成立させながら、RADWIMPSの作品として、バンドのヒストリーの中に見事に落とし込まれた作品だと感じていますが、どのようにそのバランスを取っていったのでしょうか?
野田洋次郎 聴いた人からすると、バランスのいいものに感じたかもしれませんが、僕らとしては、100%映画に寄り添った、完全に映画のための音楽を作ったという感覚でした。そうした制約の中で、特にインスト曲に関しては新しい発見もたくさんありましたけど、歌詞がある曲に関しては、新海(誠)監督が求めるRADWIMPS像が相当に強いものがあって、そこは最後までブレがありませんでした。もちろん、直接的に映画のことを歌っているわけではないのですが、僕が新しい提示の仕方、つまり監督のRADWIMPS像から外れた表現をしようとすると、それは違うということになったりして。ですから、監督が求めるど真ん中を歌にしようという意識を強く持っていました。

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