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“異業種俳優”の草分け、リリー・フランキーの功績と凄み

 近年、ピエール瀧や星野源、浜野謙太、高木渉、立川談春など、本職に加えて俳優としてもつめ跡を残す“異業種俳優”の活躍が目立っている。これまでも沢田研二や堺正章、ビートたけしなど多くの“異業種俳優”は存在したが、昨今の流れをけん引するきっかけとなった人物といえばリリー・フランキーではないか。

 13年に「第37回 日本アカデミー賞」で最優秀助演男優賞を受賞するなど、演技力には元々定評のあったリリーだが、ここ最近は一段と俳優業に拍車がかかっている。今年公開される出演映画は8本、うち1本の『シェル・コレクター』(16年2月公開)では『盲獣vs一寸法師』以来15年ぶりに単独主演を務めた。10月公開の『SCOOP!』では怪しい情報屋を、『お父さんと伊藤さん』では上野樹里と20歳差の恋人役を演じるなど、ますます演技の幅を広げているが、彼がこれほどまでに俳優として無敵な理由とは?

『東京タワー〜』でサブカルの“風雲児”から全国区に

 リリーは63年生まれの52歳。マルチタレントで、肩書きはイラストレーター、ライター、エッセイスト、小説家、絵本作家、アートディレクター、ミュージシャン、構成作家、フォトグラファー、俳優……などなど多岐にわたる。武蔵野美術大学を卒業後5年間は無職で、「20代後半はホームレスに近い生活をしていた」というリリーが、いわゆる著名人として頭角を現したのは90年代。眠っていた才能を爆発させ、のちに『日本のみなさんさようなら』(文春文庫PLUS)や『美女と野球』(河出書房新社)のタイトルでまとめられるエッセイ群や、過激な下ネタで女子高生の生態を描いた『女子の生きざま』(新潮文庫)などがサブカルチャー界隈で大ウケ、一躍サブカル界の“風雲児”となった。
  • 『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン』のジャケット写真(新潮文庫)

    『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン』のジャケット写真(新潮文庫)

 「そもそもサブカル界では人気者でしたが、その名が全国的に注目されはじめたのは彼が30代後半の01年頃。この年はバラエティ番組『ココリコミラクルタイプ』(フジテレビ系)にレギュラー出演したほか、後にアニメ化もされる絵本『おでんくん』を発売。また、俳優業に挑戦しはじめたのもこの頃です(01年6月に初主演映画『盲獣〜』が「ぴあフィルムフェスティバル」で公開、同作の正式公開は04年3月)。そして、05年発売の自伝的長編小説『東京タワー 〜オカンと僕と、時々、オトン〜』(扶桑社)で大ブレイク。リリー・フランキーの名はテレビや新聞などの“メインカルチャー”まで一気に浸透していきました」(某サブカル系ライター)

40代でうつを経験、その後に俳優としての才能が花開く

  • 吉田豪著の『サブカル・スーパースター鬱伝 』(徳間文庫カレッジ)

    吉田豪著の『サブカル・スーパースター鬱伝 』(徳間文庫カレッジ)

 サブカル界で囁かれるテーゼのひとつに“サブカル男は40歳を超えるとうつになる”というものがあるが、実は彼もそのひとり。プロインタビュアー・吉田豪の著書『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)でリリーは、「本格的に惑い、本格的に憤り、本格的に恨みはじめるのが40代」と喝破。仕事上で若手と言えなくなったことから改めて自身をふり返り、「終点から逆算したときに、これからつまんなくなる予感」がしてうつ状態になったと語っている。

 特に鬱々としていたのは意外にも『東京タワー〜』を発売したころだそうで、これを前出のライターは「そもそも感受性が豊かで、“コロンブスの卵”的な切り口が得意な方。サブカルの位置からメインカルチャーの常識を“解体”するような発言で人気を博しましたが、自身がメインに立たされたことで不安になったのかもしれません」と分析。だが、そんな鬱々とした40代に突如開花したのが“俳優”としての素質だった。08年に公開した映画『ぐるりのこと。』では、「第51回 ブルーリボン賞」新人賞を最高齢の45歳で受賞している。

故・ナンシー関さん「(リリーは)本当にしょうがない人だね(笑)」

 その後も、映画やドラマで活躍。“魔の40代”から50代へと突入した13年にも映画『凶悪』、『そして父になる』で数々の映画賞を受賞した。クセのない素朴な顔立ちにスマートな体型、身長は170cmを超えており、佇まいや声に大人の色気が宿っているなど、外見的にもメインカルチャーで人気が出ることは頷けるのだが、ここまで広く彼が世間から求められる理由は何なのだろう?
 「彼自身の魅力に尽きます。前出の吉田豪さんの著書で、リリーさんは『“鬱は大人のたしなみ”ぐらいの感受性がない人とは友だちになりたくない』などとおっしゃっていますが、これは相当な人生経験がないと言えないし、さらには非常に懐の深い言葉。『笑っていいとも!』のテレフォンショッキング出演時には、“彼女”と言い張ってダッチワイフを連れてくる(笑)など、ユーモアセンスも抜群です。

 エロトークが上手い人は、福山雅治さんやチュートリアルの徳井義実さんなど男女問わず人気が出やすいのは周知の事実ですが、これに加えてリリーさんは仕事の大きさに関わらず興味のある仕事を受けるという筋の通ったところがある。なのに“遅刻魔”だったりと抜けた部分もあって、それが“放っておけない”奇妙な魅力につながっているようです。リリーさんが尊敬する故・ナンシー関さんは、彼との対談において、『(リリーは)本当にしょうがない人だね(笑)』と愛情たっぷりに語っていましたが、恐らくこれが彼の魅力を最も的確に表した言葉でしょう」(同ライター)
 こうした彼本来の魅力がつまったお芝居は視聴者の目にも新鮮に映り、“専業俳優”たちの中でもスパイス的な存在となっていく。この効果が注目され、昨今の“異業種俳優”が活躍しやすい環境が作られていったと言っても過言ではないかもしれない。俳優として絶大なる支持を集める一方、“興味のある仕事をする”というスタンスはそのまま。依然として『週刊SPA!』(扶桑社)ではみうらじゅんと共にグラドル批評「グラビアン魂」を連載中、同コーナーからはこれまでに壇蜜や橋本マナミ、吉木りさ、森下悠里といった“大物グラドル”たちを見出しており、サブカル界における求心力もいまだ健在だ。

 俳優としては今後も主演映画『美しい星』(吉田大八監督/17年5月公開)や、俳優の斎藤工がメガホンを取った『black13』、大根仁監督の『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』など出演作が続々と控えるリリー・フランキー。恐らく彼本人は望まないだろうが、今後も“異業種俳優”の筆頭として強く気を吐いていってもらいたい。

(文:衣輪晋一)

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