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松坂桃李インタビュー『パブリックイメージとのギャップを受け入れてもらえるようになってきた』

NHK大河ドラマ『真田丸』をはじめ、盛り上がる“真田イヤー”。記録的ヒットを打ち立てた舞台『真田十勇士』の映画版は、鬼才・堤幸彦による、日本映画史上類を見ない大スケールのセット、のべ15000人のエキストラ参加など、型破りなエンタテインメント超大作。舞台版に続き、堤監督とタッグを組んで艶と影をあわせ持つ忍者・霧隠才蔵を演じた松坂桃李に、堤組の印象や作品世界の魅力などを聞いた。役の幅を広げている印象のある、近年の俳優業についても語ってくれた。

アナログ部分があるからこその独特の世界観

――2014年の舞台版でも、十勇士いち容姿端麗で頭の切れる忍者・霧隠才蔵を演じた松坂さんですが、多くの名優たちが演じてきた才蔵というキャラクターの魅力、また、滅びの物語でありながら、大河ドラマをはじめ数々の舞台、映像化されてきた真田一族をめぐる作品世界の魅力については、どう捉えていますか?
松坂桃李もちろん史実もちゃんとありますが、男のロマンをすごく感じるんです。だからこそこれまでにも、いろいろな方向性から違った切り口の物語が作られてきたんじゃないかと思います。才蔵のイメージについては、中村勘九郎さん演じる猿飛佐助が太陽ならば、才蔵は月みたいなもの。まさしく“THE・忍び”という影の部分が大きいところが魅力です。

――今回の映画化にあたっては、どのようなことを意識されましたか?
松坂桃李映像だとカメラの寄り引きなどもあって、舞台以上にディテールやニュアンスの部分が必要とされるので、才蔵の細かいところにも色を塗っていこうという意識はありました。例えばより細かいニュアンスが出るように、舞台版とはヘアスタイルを少し変えてみたりして。「目が若干見えない感じっていうのも、ありなんですかね?」などヘアメイクさんたちと話しながら作っていったのですが、ほとんど見えなくて(笑)。

――たしかにマントも含め、色気と陰りが魅力的な才蔵の出で立ちは、アクションには不向きかと……。そんな才蔵に、堤監督からは「馬と並走してください」なんて無茶ぶりをされていたのだとか?
松坂桃李マントといい、機動性ゼロでした! 今回の映画は、冒頭がアニメだったりして、そういう新しさがあるにも関わらず、撮っている部分はすごくアナログ(笑)。独特の世界観ですよね。でもそういうアナログの部分があるからこそ、時代劇ならではの世界観も成立しているのかなと思いました。少し泥臭い感じというのか、そういう部分も時代劇にはやっぱり必要なので。ただ単に新しいことに挑戦するのではなくて、その世界のリアリティを追求していると思います。

――今回の堤監督の演出で、印象に残っているシーンはありますか?
松坂桃李才蔵にはマントで空を飛ぶ設定があるのですが、どういう感じで飛べばいいのか、全然想像できなかったんです。スタジオで監督に言われるままに、手を広げたり、傾いたりしながらも“この感じでいいのかな?”と考えていたんですけど、仕上がりを見ると、しっかりと飛んでいるように見える。堤さんの頭のなかにある画というのは、すぐにはたどり着きにくいところにあるんだなと改めて痛感しました。

勘九郎さんと一対一の立ち回りができる幸せな時間

――佐助を抱えて飛ぶシーンもありましたね。
松坂桃李そこが大変でした! 帯で結んでいるだけだったので、勘九郎さんもキツかったんじゃないかな。今回、勘九郎さんは本当に生傷が絶えなかったと思います。火あぶりをされながらの立ち回りとか“何をやらせているんだろう!?”と思いました(苦笑)。でもあのときの勘九郎さん、めちゃくちゃカッコいいんですよね。

――中村勘九郎さんとも、舞台版に続いての共演になりました。
松坂桃李幸せな時間でした。とくに後半、佐助と一対一のシーンを撮れたことがすごく嬉しくて。勘九郎さんとさしで立ち回りができるなんて“なんていい時間なんだ!”と感じていました。

――佐助たち十勇士が、平凡な武将の真田幸村を“嘘”で立派な武将に仕立てあげていくユニークなストーリーには、「嘘もつき通せば真実になる」というテーマがあります。これについてはどう思いますか?
松坂桃李僕らのやっているこの仕事もフィクションなので、それを本物にするという意味では、通じるところがあるのかもしれません。例えば、嘘と言われることでも、本当だと思い込みながらやっていくことで、本当が広がっていって、本物になる。そういう広がり方は感じます。

――昨秋放送された、堤幸彦演出の主演ドラマ『視覚探偵日暮旅人』(日本テレビ系)では、作品を通して「自分が本当に信じるものが“本当だ”と思えば、それが真実になる、ということを教えてもらいました」というコメントを出されていました。堤監督は、松坂さんにとってある意味、真実や可能性を広げてくれる存在でもあるんでしょうか?
松坂桃李作り上げた世界観を、より本物にできる方というのでしょうか。それをキャスト、スタッフ全員がしっかりと共有できる演出然り、空間を作ることができる。だからこそ、みんなが恐れず、その船に乗ることができる。そういう大きなものを感じます。

――いろいろな監督や演出家とお仕事をされるなか、堤監督の演出についてはどのような印象を抱いていますか?
松坂桃李堤さんの頭のなかにできあがっている画のなかに、飛び込んでいく感じです。きっと一つひとつのカット割を完璧にイメージされているんだと思います。現場のディレクションはほとんどないですし、堤さんが現場にいるのも、最初の段取りのときだけなんです。あとは(別室のモニタールームにいらっしゃるので)お見かけすることもなく、時々マイク越しに天の声のように、具体的な指示が降ってきます(笑)。だから段取りのなかで、堤さんの世界観を汲み取って、あとはそこへ飛び込んでいくイメージです。

――そのとき、迷いはないですか?
松坂桃李そこはないですね。

迷いながらのときもあるし、後から迷いに気づくこともある

――どの作品も、撮影に臨まれるときには、迷いのない状態なんですか?
松坂桃李いや、迷います。迷いながらやっているときもありますし、シーンを撮ってから気づくこともあります。先日まで撮影していた『キセキーあの日のソビトー』(2017年新春公開/兼重淳監督)では、シーンを撮った後に「監督、こんな感情が出てきてしまったんですけど」「そうだよね、じゃあ次のシーンは、こう立て直すよ」ということもありました。だから組によって、違うんだろうと思います。それぞれの作品の色というものがあるので、そこに自分がしっかりと入っていけるように、あまり頭でっかちになり過ぎないようにしたいと思っています。

――二枚目に、三枚目に汚れ役に、精力的に経験を積まれていくなかで、気をつけていることはありますか?
松坂桃李お芝居の鮮度を落とさないようにしたいということは、大事にしています。知識や理屈ばかりにならず、でも考えることって本当に大事です。だから考えることは大前提なんですけど……現場に入ったときに、いろいろな人の言葉というプレゼントをもらうということですかね。現場でのその瞬間の空気というか、相手からもらえる言葉というのは、台本に書かれているセリフとはまた違う印象を受けたりすることがあるんです。相手からのプレゼントをしっかり受け取れるように、アンテナを張り続けることが、お芝居の新鮮味にもつながっていくんじゃないかと思います。「プレゼントをしっかりともらってくださいね」って、舞台『HISTORY BOYS』(2014年)をやったときに演出家の小川絵梨子さんが言ってくださった言葉なんです。相手からのプレゼントを受け取り、自分もプレゼントを贈る。そういうことを大事にしてくださいって。その言葉がずっと、心に残っているんです。
――舞台に、映像に、バラエティ豊かな作品で、一作ごとに新鮮な印象を残す、松坂さんの秘密の一端を垣間見た気がします。最後に、最近の松坂さんには、霧が晴れたような印象を受けますが、ご自身のなかで変化を実感されることはありますか?
松坂桃李この夏に挑戦する舞台『娼年』(三浦大輔演出)然り、2年くらい前から「松坂くん、こういう作品やるんだ!?」と言われることが多くなりました。それまでのパブリックイメージは、さわやかな好青年という感じだった気がするんですけど、ギャップを受け入れてもらえるようになってきたというのか。実際、そういうきれいな作品もたくさんやらせていただいたし、そこを突き詰めていくのもすごくいいと思うんですけど、自分が自分にかけるハードルが低くなるなって、僕自身のなかでちょっと思ったことがあったんです。それをどうにかしたいなと思っていた時期に、運良くいろいろな作品をやらせてもらえることがありまして。そこからまた、自分が自分にかけるハードルを、ちゃんと高くかけられるようになれた気がしています。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂聡)

真田十勇士

 関が原の戦いから10年。天下統一を目の前にした徳川家康と「豊臣の世を再び!」と復権を狙う豊臣家の対立が深まっていた戦国の世で、「智謀知略天下に並ぶ者なし!」の名将として、世間から尊敬を集めていた男・真田幸村(加藤雅也)。しかし、実は幸村、その男前な容貌と奇跡的に起こるラッキーの連続によって、天下の名将に祭り上げられていただけのただの腰抜け男だったのだ。
 その実像と虚像のギャップに悩んでいた時、抜け忍・猿飛佐助(中村勘九郎)と運命的に出会う。忍者の里から飛び出して、どデカいことを成し遂げたいと思っていた佐助は、「オイラの嘘で、あんたを本物の天下一の武将に仕立て上げてみせようじゃないか!」と、 同じ抜け忍の霧隠才蔵(松坂桃李)を筆頭にひと癖もふた癖もある十人の勇士たちを集め、ここに「真田十勇士」が誕生した。

監督:堤幸彦
出演:中村勘九郎、松坂桃李、大島優子、永山絢斗、加藤和樹、高橋光臣、石垣佑磨、駿河太郎、村井良大、荒井敦史、望月歩、青木健、伊武雅刀、佐藤二朗、野添義弘、加藤雅也、大竹しのぶ
9月22日(木・祝)全国ロードショー
(C)2016『真田十勇士』製作委員会
【公式サイト】(外部サイト)

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