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西島秀俊、40代半ばを過ぎてどう大人になっていくか『出演オファーに「ノー」と言ったことはない』

『MOZU』や『女が眠る時』などドラマから映画まで、作品規模やジャンルを問わず精力的に多様な作品に出演し続けている西島秀俊。最新主演作『クリーピー 偽りの隣人』では名匠・黒沢清監督と4度目のタッグを組み、犯罪心理学者として事件を追う主人公・高倉を熱演している。黒沢組だからこそ感じたことがあるという撮影現場、共演した若手俳優について思うこと、40代半ばを迎えた今の俳優業への想いも語ってくれた。

芝居は楽しい作業だけどキリがないところもある

――大学の講義で、高倉が陰惨な事件をニヤニヤしながら話していたのが印象的でした。どういったことを意識して演じていらっしゃったのでしょうか?
西島秀俊高倉はどこか人間的に欠落した部分があって、普通の人とは違います。連続殺人犯やサイコパスの心の闇を不用意に見てしまう。それが今回の事件に巻き込まれる一番の理由だと思いました。高倉の周りで起こることは必然であるというキャラクターにしたかったです。監督も、冒頭のシーンを「いや〜すごいやつ捕まえちゃったな〜(少しワクワクした言い方をしながら)」という感じで、とおっしゃっていて(笑)。監督も同じように高倉のことを考えていらっしゃったんだなと感じました。

――確かに冒頭の高倉のあの雰囲気があるからこそ作品の世界観に入っていきやすかったと思います。
西島秀俊ものすごく不穏な空気はありつつ、前半はまだ何も起きていないので、高倉という人物が重要です。高倉がどんどん事件にのめり込むことで隙が生まれてくる感じや、このままでは危ないと思わせる仕掛けは、実はいろいろなところに散りばめられています。
――黒沢清監督の作品に出演するのは今作で4度目になりますが、何か意識的にチャレンジしたことはありましたか?
西島秀俊サイコスリラーというジャンルにはずっと挑戦したかったですし、元刑事でサイコパスを追いかける役にも興味がありました。今までやってきたようなアクションで犯人を捕まえていくのとはまったく違うので、そういう意味では新しい挑戦ができたと思います。

――高倉のように仕事にのめり込んでいって周りが見えなくなることはよくあると思うのですが、ご自身で思い当たることはありますか?
西島秀俊役者にはそういう人が多いのではないでしょうか(笑)。架空の人物になりきろうとするのは楽しい作業ですし、キリがないところもあるので。役にのめり込むことによって、それ以外のことから気持ちが外れていってしまうことはあると思います。

絶妙なタイミングですべてを緻密にやるプロの仕事

――ひとつのシーンのなかで光の加減がどんどん変わっていくなど、黒沢作品には独特の映像美があります。西島さんが思う黒沢作品の魅力はどんなところですか?
西島秀俊どの作品でも、映画というのは空気や雰囲気を切り取って映し出そうと努力していると思います。でもそれは難しくて、例えば“不気味な場所だった”と文章にすれば簡単ですが、不気味に映すのはすごく大変なことです。ただ不気味な場所を撮ったとしてもそういうふうには映らないわけで。それを黒沢組は、それぞれのパートのスタッフさんが絶妙なタイミングですべてを緻密にやっている。そういったことが、何かが起こる予感だったり不穏な空気に反映されていくのだと思います。それこそが黒沢作品の魅力ではないでしょうか。

――黒沢監督の演出で印象に残ったことは?
西島秀俊大学のシーンで、人が大勢いたはずなのにいつの間にか誰もいなくなっているという場面がありますが、エキストラさんの動きにもとても細かい演出をされていました。ただ人が不自然にたくさんいるのではなく、全員がちゃんと意味のある動きをしています。エキストラの方々は、シーンによっては作品に重要な影響を与えてくれます。どのカットでも楽しんでクリエイティブなことをされる方だと思いました。
――先日ベルリン国際映画祭に行かれていましたが、黒沢監督の作品は海外でも非常に人気がありますよね。
西島秀俊黒沢作品が海外で評価されているのは、世界の今というものを作品で描いているからだと思います。ベルリン国際映画祭の今作のQ&Aで、「これはいま日本で起きていることなんですか?」という質問に対して「これはおそらく世界中で起きていること。人類が生まれて文明が発祥して、そして今、ついに家族という最小単位のつながりすら壊れかけている。でもこれは必然なのでは」と監督がおっしゃっていました。そういったことが、海外の方にも共感していただけるんだと思います。

――今作のシリアスな内容からは想像もつかないほど、現場では竹内結子さんや香川照之さんと和気あいあいとされてたそうですね。
西島秀俊香川さんや竹内さんは、現場で楽しくいながらも本番ですごい演技をされていて、オンオフの差が激しいんです。僕は楽しみながらもどこかでずっと役のことがひっかかっていました。おふたりはわざとそうしていたのかもしれないですし、どこかで想いをキープしていらっしゃったのかもしれない。それは一度聞いてみたいです。

――撮影の合間に妄想旅行をするのが流行っていたそうですが(笑)。
西島秀俊ふたりは妄想旅行に旅立っていましたけど、僕はそんなに行けませんでした(笑)。香川さんが「目を閉じてごらん」と言うと竹内さんが「あ、ほんとだ」と。でも僕は「行っていないですよ、僕は」って(笑)。香川さんは「首都高のここが渋滞していて……」という旅行前の段階から妄想していて、設定が細かいんですよ。結局最後は、空港のラウンジで終わったとおっしゃっていて……現地に着いてすらいないですからね(笑)。

新しいタイプの演技をしている20〜30代の俳優たち

――作品とのギャップが(笑)。今作では東出昌大さん、そして『MOZU』では池松壮亮さんなど実力派と呼ばれる若手俳優の方々と共演されていますが、彼らと今後の日本映画についてお話をすることもありますか?
西島秀俊そういった話をする機会はあまりありませんが、今の20〜30代の役者さんたちには情熱を持った方が多いと感じています。ただ有名になりたい、作品に出たいというのではなく、映画が好きで本当に演技がやりたいという人たちばかりなので、そういう人たちとご一緒するのはすごく楽しいです。新しいタイプの演技をみなさんされていると思います。

――新しいタイプの演技というのは?
西島秀俊僕の若い頃は画面に映る自分を観る機会がほぼ無かったのですが、今の若い人たちは小さい頃から当たり前のように観られる環境があったと思うんです。自分がどうしゃべっていて、どんなふうに動いてるか、それがどう映っているかということがよくわかっています。だからカメラの前にいることにもあまり違和感を感じないのではないかと。そういうこともあって、お芝居そのものも上手ですし、見せ方にも長けていると思います。

――西島さんご自身の役者としての今後の課題はありますか?
西島秀俊どう大人になっていくかということです。45歳にもなって何を言っているんだと思われるかもしれませんが、僕が30代のときの40代はもっと大人に感じていました。今後作品のなかで40代、50代の役を演じていくにあたって、いま自分には何が必要なのかということを常々考えて模索しています。
――外国作品にも出演されていますが、作品選びで大事にしていることは?
西島秀俊海外の監督作品も、日本の監督作品とプロセスは同じです。基本的には、オファーをいただいたら脚本を読んで、監督とお会いして気持ちがつながってからご一緒させていただきます。ただ、ここ20年ほどは僕ひとりの意思ではなく、スタッフと一緒に出演作を決めていて、僕は一度もオファーに対して「ノー」と言ったことはありません。もちろん物理的なスケジュールの問題や、いろいろなタイミングはありますので、すべてを受けられるわけではありませんが。僕自身はいつもこれまでに演じたことのないような役に挑戦したいと思っています。

――黒沢作品の『LOFT』で西島さんが演じていらっしゃった役も今だからこそ観たいと思うのですが……(笑)。
西島秀俊本当ですか! ありがとうございます。じゃあ、いつかまた猟奇的な役も(笑)。
(文:奥村百恵/撮り下ろし写真:逢坂聡)

クリーピー 偽りの隣人

 元刑事で今は犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、かつて同僚だった刑事・野上(東出昌大)から、六年前に発生した一家失踪事件の分析を依頼される。しかし、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどるも、核心にはたどりつけずにいた。
 一方、高倉が妻・康子(竹内結子)とともに引っ越した先の新居の隣人は、どこかつかみどころのない家族だった。病弱な妻と中学生の娘・澪をもつ人の良さそうな主人・西野(香川照之)との何気ない会話に翻弄され、困惑する高倉夫妻。そしてある日、澪が告げた言葉に高倉は衝撃を受ける。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」。
 未解決の一家失踪事件と、隣人一家の不可解な関係。ふたつの繋がりは本当の恐怖の始まりでしかなかった。

監督:黒沢清
出演:西島秀俊 竹内結子 川口春奈 東出昌大 香川照之 藤野涼子 戸田昌宏 馬場徹 最所美咲 笹野高史
2016年6月18日(土)全国ロードショー
(C)2016「クリーピー」製作委員会
【公式サイト】(外部サイト)

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