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“白すぎる”オスカー、現地の温度感は?改革案にも賛否両論

  • 作品賞ほか6部門でノミネートされたスティーブン・スピルバーグ監督『ブリッジ・オブ・スパイ』

    作品賞ほか6部門でノミネートされたスティーブン・スピルバーグ監督『ブリッジ・オブ・スパイ』

アカデミー賞授賞式まで1週間に迫った米映画界において、受賞の行方よりも大きな話題となっているのが、“白すぎる”と称された人種問題だ。先月発表されたノミネーションにおいて、2年連続で俳優部門20枠を白人が占めたことで議論が勃発。アフリカ系アメリカ人監督のスパイク・リーや、ウィル・スミス夫妻らが授賞式の欠席を表明し、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが会員ルールの変更を発表。ジョージ・クルーニー、スティーブン・スピルバーグ監督ら多くのフィルムメイカーが独自にコメントを発する事態となっている。

アカデミー初の黒人女性会長が異例の“遺憾コメント”

  • 『ブリッジ・オブ・スパイ』のインターナショナルプレミアに登場したスティーブン・スピルバーグ監督(左)、トム・ハンクス

    『ブリッジ・オブ・スパイ』のインターナショナルプレミアに登場したスティーブン・スピルバーグ監督(左)、トム・ハンクス

 今回、予想に反して候補漏れとなったのは、伝説のヒップホップグループ、N.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の俳優陣、アメフト選手の脳しんとう問題を扱った『コンカッション』のウィル・スミス、オンライン動画配信サービスNetflixのオリジナル映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』で熱演が光ったイドリス・エルバら俳優陣など。キング牧師を題材とした『グローリー/明日への行進』が監督賞や俳優賞の候補から漏れた昨年を彷彿させる結果に、ソーシャルメディアでは“白すぎるオスカー”というスレッドが立つほどであった。

 アカデミー初の黒人女性会長であるシェリル・ブーン・アイザックス氏は、ノミネーション発表直後に異例ともいえる“遺憾コメント”を発表。オスカーの投票権を持つ会員構成において、女性や白人以外の人種といったマイノリティの人数を2倍にする改革案を示した。ここ数年、会員の大多数を白人の年配男性が占めていることが批判の対象となってきたが、同改革により、現役を引退した功労者たちが投票権を失うことにもなり、賛否両論の声が上がっている。

 こうしたなか、とくに俳優部門においてオスカーの行方を占うとされる米俳優組合(SAG)賞では、エルバが映画部門の助演男優賞(『ビースト・オブ・ノー・ネーション』)に加え、テレビ部門にて主演男優賞(「映画/ミニシリーズ『刑事ジョン・ルーサー』)を受賞。このほか、テレビ部門でヴィオラ・デイヴィス(『殺人を無罪にする方法』)、ウゾ・アドゥバ(『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 塀の中の彼女たち』)、クイーン・ラティファ(『BESSIE/ブルースの女王』)ら、アフリカ系アメリカ人女優たちが受賞を重ね、映画やテレビ界における有色人種の女性の存在感をアピールした。

 こうしたSAG賞の結果もあってか、人種問題においては、徐々に冷静かつ前向きな意見が注目されている印象だ。英国人俳優のマイケル・ケーンはエルバの演技を讃えつつ、「忍耐強く待てば、そのときは来る。私もオスカーを受賞するのには何年もかかった」とコメント。2年前に『それでも夜は明ける』で助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴは「今足りないことよりも、どんな可能性があるかということに興味がある」と前向きに語っている。

世論の多くが冷静に捉えた、アメリカ社会の不平等のひとつ

  • 最多12部門でノミネートされた『レヴェナント 蘇えりし者』

    最多12部門でノミネートされた『レヴェナント 蘇えりし者』

 フィルムメイカーたち、そしてメディアの多くは、この人種問題がアカデミー賞に限ったことではないことを身に染みている。米『バラエティ』誌のティム・グレイは、「アカデミーが一手に批判を受けているが、本当の責任は(企画決定や俳優、クルーの布陣を行う)スタジオやエージェンシー、出資者たちにある」と明言。「さらに、これは黒人だけに限ったことではない。ハリウッド映画はヒスパニック系、アジア人、ネイティブ・アメリカン、イスラム教徒、障がいを持つ人々、LGBTコミュニティの人々など、世界的に存在感のある人々を描き切れていない。さらに、俳優だけでなく、カメラの裏側で働くクルーや重役たちの構成にも当てはまる問題」とコメントする。

 もちろん、映画界に限ったことでもない。映画ファンのなかには、感情的に「白すぎるオスカー」に憤っている人々もいるが、世論の多くはアメリカ社会に深く根付く人種や性別、性的志向などの不平等が、たまたまひとつの形となって表れたと冷静に捉えている。ここ数年は、白人警官による黒人の若者への暴力や悲劇的な銃殺事件などが起きるたびに、各地で暴動が起き、ミュージシャンやセレブリティが差別撤廃を叫ぶパフォーマンスを行ってきた。しかし、それらに比べると今回のアカデミー賞の人種問題に対する反応は、もう少し冷静だ。

 アカデミー賞のボイコットよりも、むしろ少数派とされる人種や女性フィルムメイカーによる作品を支持することが、ひいてはハリウッドで決定権を持つ人々の構成や意識を変えることにつながる、と。変化には時間がかかるものだが、今回のアカデミー賞をきっかけに“議論を続ける”ことこそが、アメリカ社会全体へ影響を及ぼすことになるという意見も目立つ。

 言うまでもなく、今回ノミネートされた俳優やフィルムメイカーたちはいずれも素晴らしく、公平な称賛に値する。授賞式当日は、司会を務めるアフリカ系コメディアン/俳優のクリス・ロックのモノローグを始め、受賞者のスピーチやプレゼンターのコメントなど、随所で人種問題に関する想いが語られることだろう。第88回アカデミー賞授賞式は、米時間2月28日に、ロサンゼルスのドルビーシアターにて開催される。
(文:町田雪)

『レヴェナント 蘇えりし者』(C)2016 Twentieth Century Fox『ブリッジ・オブ・スパイ』(C)2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

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