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(更新: ORICON NEWS

アニメの聖地化を目指す埼玉

 近年、アニメ・漫画・ゲーム等のコンテンツを利用し観光振興を図る自治体が目立っているが、早くからアニメを観光資源とした様々な試みを実施してきたのが埼玉県だ。2013年からはアニメ・マンガイベント『アニ玉祭(アニメ・マンガ祭り in 埼玉)』を開催し、6万人以上を集客。今年4月からはテレ玉でご当地アニメ『浦和の調ちゃん』の放送も開始する。そんな埼玉県の“ガチすぎる”取り組みにフォーカスしながら、アニメでの観光振興の可能性を改めて探ってみた。

埼玉県のアニメへの取り組みのきっかけは『らき☆すた』

  • 『らき☆すた』OPテーマ「もってけ!セーラーふく」(2007年5月23日発売)は最高2位、累積17.2万枚を売り上げる大ヒットに。

    『らき☆すた』OPテーマ「もってけ!セーラーふく」(2007年5月23日発売)は最高2位、累積17.2万枚を売り上げる大ヒットに。

 そもそも埼玉県は、都心からアクセスが良い割に目立った観光資源が少なく、特に若い世代に向けての観光アピールをどうしていくかが大きな課題となっていた。そんな折、2007年に放送されたTVアニメ『らき☆すた』をきっかけに、大きな変化が訪れる。登場キャラクター・柊つかさ&かがみ姉妹の自宅のモデルとされた久喜市(当時は鷲宮町)の「鷲宮神社」に“巡礼”するファンが殺到したのだ。その動きに着目した当時の鷲宮町商工会は、オリジナルグッズなどを制作し、町ぐるみでファンを迎え入れた。結果、放送前は10万人にも満たなかった初詣客は、50万人近くにまで増加した。

 『クレヨンしんちゃん』『となりのトトロ』など、埼玉県がもともとアニメ作品の舞台となる機会が多かったこともあり、『らき☆すた』人気をきっかけに県もアニメやオタクカルチャーを軸にした観光振興に本腰を入れ始める。観光情報サイト『埼玉ちょ〜でぃーぷな観光協会』を立ち上げ、アニメや漫画といった視点から埼玉の魅力を紹介。“オタクの、オタクによる、オタクのためのアニメツーリズムを考える会”として、2009年には専門家らによる「埼玉県アニメツーリズム検討委員会」も設置された。さらに、県内のクリエイターを発掘する場として『アニメど埼玉』を立ち上げ、観光PRアニメを制作するなど、作品の人気に頼った“一過性”のブームで終わらせるだけでなく、継続性を意識した取り組みを図ってきた。

自治体や地元企業が一体となって“聖地”をアピール

 その後『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)、『ヤマノススメ』『神様はじめました』など埼玉県を舞台にした作品のヒットが続いたことも追い風となった。『あの花』の秩父市、『ヤマノススメ』の飯能市は観光サイトでのアピールや聖地マップを配布。こうした取り組みに地元企業も賛同し、『らき☆すた』『クレヨンしんちゃん』など沿線に人気アニメの舞台が多い東武鉄道は、スタンプラリーやイベント開催、特別列車の運行などを実施。同じく『あの花』『ヤマノススメ』など、沿線を舞台とする作品が多い西武鉄道も、観光マップの配布や特別乗車券の販売などを実施した。自治体と地元企業、さらには地元民までが一体となって“埼玉県=アニメ”を強くアピールしてきたのだ。

 こうしたなか、2013年より“アニメと観光”をテーマとした総合イベント『アニ玉祭(アニメ・マンガ祭り in 埼玉)』が開催されている。埼玉以外のご当地アニメも招聘した2014年10月の2回目は2日間で約6万3000人を集客し、大盛況。コアなアニメファンはもちろん、比較的ライトな層にも“埼玉県=アニメ”というイメージが浸透してきている。次の段階として、『アニ玉祭』内で実施された「アニメ・マンガの聖地サミット in 埼玉」をきっかけに、新たなプロジェクト『埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議』も発足。“埼玉=アニメの聖地”の確立に向けて、自治体や商工団体、観光事業者等がさらに連携を強めている。

2015年4月からは地域密着型アニメも放送

  • 2015年4月からテレ玉で放送される『浦和の調ちゃん』ポスター

    2015年4月からテレ玉で放送される『浦和の調ちゃん』ポスター

 そしてこれら一連の取り組みのひとつの“答え”として期待されるのが、2015年4月より放送されるアニメ『浦和の調(うさぎ)ちゃん』だ。タイトル通り、さいたま市浦和区を舞台にしたアニメ作品で、タイトルは“つきのみや神社”の愛称で親しまれている浦和の「調(つき)神社」に由来している。登場キャラクターは、浦和にある駅を美少女として擬人化。放送はテレ玉のみだが、キャラクターの可愛さもあって埼玉県以外のアニメファンからも注目を集めている。

 さいたま市(旧浦和市)出身で、同作を企画・プロデュースしたharappa合同会社の三澤友貴氏は、「様々な埼玉県の“ご当地アニメ”作品があるなかで、『自分たちの生まれ育った町を舞台にしたアニメを、自分たちで作りたい』という思いがありました。そこで同じくさいたま市出身のテレビ埼玉の高橋プロデューサーに働きかけ、実現しました」と振り返る。“地域密着”にするにあたっては、「声優さんは全員『埼玉県出身者』にすることにこだわりました。アニメでは風景はもちろん、セリフにご当地ネタを入れるなど、随所にさいたま市や埼玉県にまつわるものを出していく予定です」といい、キャラクターを使った地元企業とのコラボレーションも進行中だという。

 全国には数えきれないほどのアニメの聖地があり、ファンが“巡礼”を楽しんでいる。しかし放送が終わり、ブームも下火となってしまえば、当たり前だが訪れる人は減っていく。一過性のブームではなく定着させるためには、ただ受身になるだけではなく、新しいものを積極的に発信していくことが重要だ。埼玉県はブームを定着させ、“聖地化”を成功することができるのか? 今、全国の自治体からも熱い視線が集まっている。

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