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ORICON NEWS
雨が好きになる「本・映画・音楽」
字面と文脈、独特の「間」が雨の風景を連想させる
「新宿の裏通りのバー街を舞台に、一人のバーテンの遍歴と彼の周りの人間関係を描いた短編集です。著者自身があとがきで、久保田万太郎先生の影響で『……』を多用しているとあります。この『……』が、読んでいるうちにカウンターの向こう側でポツリポツリと話している登場人物たちを濡らす雨粒のように見えてきます。直木賞を受賞した作品で、雨やどりから始まる、夏の雨の日に読むのにぴったりの出会いと別れの物語です。“人間臭さ”や“人情味”を言葉で言い当てようとすると陳腐なものになってしまいますが、現代では感じることが難しい独特の温度・湿度を求めて、この小説から昭和の夜の街に雨やどりに行ってみませんか……」
雨の日にじっくりと鑑賞したい奥深いタッチの画集
「ドイツの作家ミヒャエル・ゾーヴァ。名前を知らなくても、絵本『ちいさなちいさな王様』の挿絵や、映画『アメリ』の劇中にでてきた病気のワニと寝室に飾られていた絵を手がけた人と聞けばピンとくる方も多いと思います。描き上げた後も気になれば修正し続けたという、塗り重ねられ過ぎた絵の具が、生乾きのような印象を与えるからか、抑えめの色調が曇天のほの暗さを連想させるからか、ミヒャエル・ゾーヴァの絵は雨の日に眺めたくなります。シンプルな構図で緻密に描かれた絵はリアルだからこそ白昼夢めいたシュールさが強調され、動物たちのコミカルな仕草とアンニュイな表情のミスマッチがたまりません。収録されている絵の数は画集というには少なめですが、どの作品もじっくりと時間をかけて眺めたくなる味わい深さがあります」
心洗われる後読感に雨でも外に飛び出したくなる
「翻訳業をしている小岩井さんと、小岩井さんが外国で“拾ってきた”という少女よつばの日常を描いた漫画です。僕がこの作品を手にしたのは書店員になってからでした。当時発売された12巻がすごく売れているので気になって1巻を買ってみたところ、あまりの面白さに次の日全巻買い揃えて、しばらく毎日読み返していました。今回の選書テーマを聞いた時にパッと思い浮かんだのが本書に収録された『おおあめ』というエピソードです。夏の大雨を全力で楽しむよつばと、小岩井さんの『あいつは何でも楽しめるからな。よつばは無敵だ』というセリフに心が洗われます。巻末に素晴らしい“仕掛け”があり、本を閉じた後、雨でも外に飛び出したくなります」
深く深く、異世界に想像を巡らせる
「なぞなぞのようですが、どこにも行けない日にだけ行ける場所があります。それが『すぐそこの遠い場所』です。“アゾット(AZOTH)”という不思議な異世界の辞典である本書はいつ読んでも楽しめますが、特に雨の日に読んでいると、部屋の中にいながら一人の過客として異国を歩いている気分になれて愉快です。詩人たちが住むエリア9(エピファイト)や、どこまでも夕方のつづくような町エリア7(P/E パープル・エッジ)など作中に21ものエリアが登場します。その中で僕が好きなのは、最も夜の長いエリア18(ナイツ)で8時間に及ぶ晩餐の終わりに食べるセスピアンと呼ばれる“時に震えがくるほどの極甘”のデザートについて書かれた章です。読む度どんな味なのか想像します」
リーディングスタイル
書籍担当 岡本 草太さん
スタッフが一点一点こだわってセレクトした、大人の知的好奇心を刺激する書籍と遊び心を刺激する雑貨を揃え、店内の書籍を試読できるカフェも併設するライフスタイル提案型のブックカフェを展開する「リーディングスタイル」。「マルノウチリーディングスタイル」はその旗艦店として東京・丸の内の商業施設「KITTE」4Fに出店。365日それぞれに推薦書物を展開する「バースデー文庫」などの企画は全国的にも話題になった。リーディングスタイルプロジェクトとして「solid&liquid MACHIDA/TENJIN」「スタンダードブックストアあべの」「BOWL 富士見/海老名」なども展開する。