亀田誠治が語る音楽シーンの危機感「僕のミッションは世代をつなぎ、“本物の音楽”を継承すること」

複数のクリエイターで楽曲を作る「コライト」の重要性

――海外と日本とでの“音質の差”について感じることはありますか。聴き比べると、クオリティにかなり違いがあるという話もあります。
亀田 実際、差はあると思います。その原因の1つは、楽曲制作の方法。海外は複数のクリエイターがコライトで作るケースが多いんですね。僕も毎年、L.A.でコライトの制作に参加していますが、トラックプロデューサー、メロディーや歌詞を考えるトップライナーなどが集まって一気に曲を作り上げる。そのスピード感やクリエイター同士のケミストリーがそのままサウンドのエネルギーにつながっているんですよね。もう1つは、海外のボーカリストの歌の上手さ。歌が良ければ音数を少なくできるし、そのぶんキックやベースの音を太くできます。日本の場合、たくさんの音を使って歌を飾ることによって逆に音の解像度が落ちてしまう。まずは、コライトを日本でももっと浸透させたいですね。日本ではシンガー・ソングライター信仰というか、“等身大の言葉を歌わせたい”という考えが強いですが、それより大事なのは、質の高い楽曲を作ることです。

――音楽シーンの変化に伴い、メジャーレーベルとアーティストとの関係が変わっていくことも予想されます。
亀田 そうですね。ただ、レーベルの伝統は大事にしてほしいと思っています。僕が愛してやまないEMIもそうですが、そこには脈々と受け継がれてきた歴史、刻まれた音楽のDNAがあって。それはとても尊いものだし、守らなくてはいけないと思います。良いアーティストを輩出するためには、特にA&R(アーティスト・アンド・レパートリーの略で、アーティストの発掘、契約、育成から楽曲の制作、宣伝までトータルで担当するプロデューサー)の存在、育成も重要です。ただ、近年はコストカット等の影響もあって、1人のスタッフが担当するアーティストの数が飽和している。一方では、働き方改革の流れもあって、アーティストとの関わりが薄くなる悪循環に陥っている。それも今後の課題だと思います。

人材育成で大切なのは「成功体験」をさせてあげること

――亀田さんは音楽を総合的に教える亀田大学をWebで展開したり、業界に関心を持つ若者に講演を行ったり、若者との交流にも積極的です。
亀田 Eテレの『亀田音楽専門学校』やJ-WAVEの『BEHIND THE MELODY〜FM KAMEDA -』もそうですが、自分のノウハウを次の世代に渡す活動は常に行っています。それは音楽業界を志す若い人たちに、本物の良い音楽を作ってほしいという気持ちが強くあるからです。そのためには、教育が必要で。座学ではなく、現場で経験した音楽体験を惜しみなく伝えていきたいですね。僕自身がいろいろな世代の人たちと交わりながら、世代をつなぐのがミッションだとも思っています。

――音楽業界を目指す次の世代に向けたアプローチも必要ですよね。
亀田 若い人たちにとっては、音楽業界の大変さしか見えてないのかもしれないですね。それを解消するためには、ライブやレコーディング現場で、成功体験をさせてあげることかなと。音楽で人が感動している瞬間を早い時期に体験することが、モチベーションにつながると思うので。優れた人材を確保しているIT業界に見習うべきところがあるでしょうね。たとえばダブルワークの推奨、在宅勤務などもそうですが、今の若者の幸せの価値観に則した働き方があるはずだし、それを音楽業界も積極的に取り入れるべき。とは言え、頑張らないといけないことも多いんですが(笑)、まさにそこがポイントだと思うんです。よくアーティストやマネージメントの方にも言うのですが、「頑張らないといけない時期はある。だけど、心と体を壊してはいけない」と。今のアーティストは本当に苛酷ですからね。心身のケアは今後、さらに重要になってくると思います。

――この先、音楽業界発展のために考えていらっしゃることはありますか?
亀田 先ほどから申し上げているように、とにかく大切なのは音楽の素晴らしさを伝えていくこと。そこで僕は、6月1日、2日に『日比谷音楽祭』(https://www.hibiyamusicfes.jp/(外部サイト))を開催することにしました。これは親子3世代で楽しめ、そしてフリーで誰もが参加できるボーダレスな音楽祭です。いろいろな音楽の魅力に、もっと気軽に触れられる“場”を作る。そこで音楽に触れた人が、もっと音楽を楽しむようになる。そんな、リアルに音楽と触れ合うきっかけを、皆の力で作りたいと考えています。

文/森朋之、写真/西岡義弘
●Profile/かめだ せいじ
 1964年、アメリカ、ニューヨーク生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、D-LITE、SKY-HI、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど、数々のアーティストのプロデュース、アレンジを手がけている。『日本レコード大賞』では、07年の第49回(平井堅「哀歌」、アンジェラ・アキ「サクラ色」)、15年の第57回(いきものがかり「あなた」、大原櫻子「瞳」)で編曲賞を受賞している。04年には椎名林檎らと東京事変を結成し、12年閏日に解散。09年、13年には自身の主催イベント『亀の恩返し』を武道館にて開催。近年は自身が校長となり、J-POPの魅力をその構造とともに解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校』(Eテレ)シリーズも大きな反響を呼んだ。14年に、週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』で執筆した過去12年間分のコラム連載から厳選した書籍『カメダ式J-POP評論 ヒットの理由』を発売。

提供元: コンフィデンス

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