ガンダム40周年を支える音楽の力、NT&UC音楽作家・澤野弘之「劇伴の価値を向上させたい」

 人気アニメ・ガンダムシリーズの劇場版最新作『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(11月30日公開)の主題歌・メインテーマを劇伴作家・澤野弘之のヴォーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]が飾る。主題歌はゲストボーカルをLiSAに迎えた「narrative」、メインテーマ「Vigilante」はデジタルサウンドで新たなガンダムの世界を演出する。『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』シリーズやお台場のガンダム立像のテーマ曲を手掛けた澤野が40周年記念作品で、再びガンダムの音楽を演出することになった。数々の人気アニメとヒット曲を送り出してきた澤野に、今作の主題歌制作秘話や、劇伴に対する想いを聞いた。

主題歌『narattive』は壮大なロックバラード、テーマ曲『Vigilante』は新しいガンダムを象徴するデジタルサウンドに

――40周年に向けた“新時代のガンダム”と位置付けた劇行版『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』が公開され、澤野さんは主題歌・LiSAさんの『narrative』とテーマ曲の『Vigilante』を手掛けています。澤野さんは『機動戦士ガンダムUC』から引き続き音楽を担当されていますが、その背景からお聞かせください。
澤野弘之 おととしの『UC』のテレビシリーズ、昨年のお台場のガンダムユニコーンの1/1立像のテーマソングと、作品が終わってからも関わらせていただくことが続いていて。プロデューサーの小形さんからユニコーンの続きの話も聞いていました。おととし、Aimerさんたちと『RE:UnChild』 というライブをやらせていただいて、その時には聞いていたので、UC(ユニコーン)が終わって4年後に突然、という話ではないです。最初はUCのスピンオフくらいに考えていたのですが、蓋を開けたらこんなに大きな話だったとは…ビックリしました(笑)。

――前回の『機動戦士ガンダムUC』では主題歌『RE:I AM』『StarRingChild』を歌ったAimerさんがブレイクのきっかけになりました。『機動戦士ガンダムNT』の主題歌『narrative』は、アニメ界でも絶大な支持を得ているLiSAさんをゲストボーカルに起用されています
澤野弘之 もともと『機動戦士ガンダムNT』の音楽を担当することは決まっていて、その流れでプロデューサーの方から主題歌も僕にお願いしたい、という話をいただいて。でも、その時点では誰をヴォーカルにするかは決まっていなかったんです。で、プロデューサーの方やレーベルの担当者含めた打ち合わせでLiSAさんにお願いしてみたいと。僕もLiSAさんとは機会があれば是非ご一緒したいと思っていたし、『機動戦士ガンダムNT』なんて大きな作品で関われたら嬉しいなという気持ちもあり、オファーを出させていただき、快諾いただきました。

――クリエイター目線で見たLiSAさんの歌声、印象はいかがでしょうか。
澤野弘之 『narrative』は『機動戦士ガンダムUC』の流れを受け継いだ、壮大なロックバラードになればいいなという思いがありました。でも、『機動戦士ガンダムUC』と異なる作品ですし、少し違ったアプローチをする必要があると考えたんです。“歌”の場合、ボーカリストの声次第で楽曲の方向性もだいぶ変わってきます。これまではAimerさんなどハスキーな声質の方に歌っていただくことが多かったので、そういう意味ではLiSAさんのようなエッジの効いた声が楽曲に乗ったら、化学反応を起こしてくれるんじゃないのかなと。そして何よりスタジオでLiSAさんの歌のアプローチを直接聴いた瞬間、「これはイメージ以上の楽曲に仕上がる」という予感がしました。

―― 一方、テーマソングの『Vigilante』はアグレッシブなデジタルサウンドになっていて。主題歌がロックバラード、テーマ曲が4つ打ちのデジタルサウンドという“差”も印象的でした。
澤野弘之 『NT(ナラティブ)』には『UC(ユニコーン)』の楽曲も一部使われているんです。新規曲もUCのメロディを再構築して作ったものもあります。その中で、新しいNTの音楽は4つ打ちのダンスサウンドで構築していきたいと思ってました。そういうアグレッシブな方向性で作るならヴォーカルを入れたらさらに際立つんじゃないかと思い、mpiさんとGemieさんに参加していただいて、テーマソングを仕上げました。

――なるほど、UCのシンフォニー的要素を継承して物語として繋がりつつも、音楽面では新しい一面を演出するわけですね。
澤野弘之 ボーカリストの力もお借りして劇中音楽をデジタル寄り、主題歌は壮大なロックバラードと差別化しました。

“音楽”でお客さんを集められるような存在が目標

――澤野さんは『ガンダムUC』のほかにも、『進撃の巨人』『アルドノア・ゼロ』『ギルティクラウン』など人気作の劇伴を数多く手掛けられています。澤野さんご自身は、元々“アニメ音楽”に想いがあったのでしょうか?
澤野弘之 僕が劇伴音楽作家を志すきっかけの1つがジブリ作品でした。僕の人生のなかで久石譲さんの音楽に触れたことは大きかったです。あと、『攻殻機動隊 』『マクロス』を手掛けた菅野よう子さんから受けた影響もありますね。学生時代は「自分もいつかアニメ作品の壮大な音楽に関われたらいいな」なんて考えていました。

――『ガンダム』シリーズとの個人的関わりはいかがでしたか?
澤野弘之 小さい頃はSDガンダム、BB戦士に触れていました。フォルムに惹かれて熱中していましたね(笑)。マニアというほどではなかったのですが、高校〜大学生のころにエヴァンゲリオンが社会現象になって、その作品の流れでロボットアニメや『逆襲のシャア』、初期のガンダム劇場版三部作を観ていました。

――“ガンダムの音楽”のイメージは作品によって異なります。初期のアニメソング、TWO-MIXさんのデジタルサウンド、『ターン∀』では谷村新司さんが歌謡曲テイストの主題歌をやられて、最近のシリーズ主題歌ではバンドサウンドの傾向が強いです。そんな中、2010年からテレビ版まで足掛け6年続いた『UC』、そして1/1立像のテーマソングなど、近年は澤野さんの音楽によってイメージが定着してきた印象があります。
澤野弘之 ガンダムだからこうしなきゃ、ということは考えていませんでした。僕の好きな音楽、好きなサウンドを届けたい一心でした。和音や好きな音色、構成など、僕の“クセ”みたいなものはあるかもしれません。結果それがユニコーンらしさという事になっていたら嬉しいですね。

――久石譲さん=ジブリ作品、菅野よう子さん=『マクロス』『攻殻機動隊 』のイメージがあるように、今では澤野さん=『ガンダム』のイメージがアニメファンの間で定着しているように思いますが。
澤野弘之 僕が長年憧れを抱いているイメージは、映画や音楽にその人の名前があるだけでお客さんが興味を持ってくれる存在になること。もちろん、駆け出しの頃よりいろいろなことがやれる状況になったので、「いくつかは進歩したな」と感じることもありますが、自分の理想像にはまだまだ遠いなって思うことしかないです。

―― サンライズの宮河社長もインタビューで、ガンダムファンの新旧世代が手を取り合ったのが『UC』だったとおっしゃっています。その『UC』では、澤野さんが手掛けた『UNICORN』のように壮大な世界観を演出した“音楽の力”も大きかったと思います。“澤野弘之の時代が来ている”という印象ですが、ご自身ではいかがでしょうか?
澤野弘之 いやいや! 僕にガンダムのイメージがついているなんて思っていないですし、ましてや自分の時代が来ているだなんてめっそうもない(笑)。僕自身が菅野さんファンだったこともあり、当然菅野さんが音楽を手掛けた『∀ガンダム』も見ていたので、僕は「自分の音楽も∀のように人から好きと言ってもらえるように頑張ろう」という気持ちで取り組んでいました。今でも自分が憧れている場所には辿り着けていないと思うことばかりなので、少しでも多くの人に振り向いてもらえる音楽を…と、日々焚き付けられているような感覚ですね。

“歌”の力も取り込み…さまざまなアプローチで劇伴音楽の地位を向上していきたい

――劇伴作家として2005年から活動し、多くの作品の音楽を手掛けてこられました。作家活動だけでなくSawanoHiroyuki[nZk]としてライブ活動もされています。澤野さんを突き動かしてきた、創作の源は何でしょうか?
澤野弘之 「自分なんてまだまだだな」という気持ちですかね。全然理想に追いつけていないと思っているからこそ、今もいろいろんなことにチャレンジし続けています。これがもし駆け出しの頃に結果を残していたら、そこで音楽創作活動がストップしていたかもしれない。たくさん音楽を作っていてもみんながみんな振り向いてくれるわけじゃないし、へこむ瞬間なんて山ほどある。だったらその経験をバネに次の作品で何かが開ければいいなと思う。そういう気持ちが音になって音楽関係者や映像関係者に伝わり、良い作品に関われる機会に繋げていければいいなと。

――しかし、劇伴音楽は注目されづらいという一面もあるのではないでしょうか。
澤野弘之 それは正直あります。1999年に坂本龍一さんの『エナジー・フロー』がヒットして、インストゥルメンタルの曲が一時ブームになったじゃないですか。そこで劇伴版音楽に興味を持つ人が増えて、インストゥルメンタルのCDがランキングを賑わせたりしました。そういう波がまた来ればいいなと。でも、おっしゃる通り劇伴音楽ってコアなジャンルだし、主題歌などと違って目立ちにくいとは思うんです。でも、作る側としては主題歌と同じように多くの人に興味を持ってもらいたいと思って取り組んでいます

――澤野さんは劇版音楽に対する、日の当たらないイメージを変えていきたいという想いがあるのでしょうか。
澤野弘之そんな現状を打破する取り組みとして、ある時期から劇伴音楽に“歌”の楽曲も作るようになりました。単純に興味があって作ったというのもありますが、それよりも映像作品において良いアプローチになればいいなという部分が大きいです。やっぱり歌のほうがインストゥルメンタルよりも注目してもらいやすいし、挿入歌のように聴けるからリスナーの興味も掴みやすい。“歌”をフックに劇伴音楽やサントラに興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいですね。

――劇版音楽自体の地位を向上していきたいと
澤野弘之 そうですね。インストゥルメンタルには、歌では表現しきれない面白さがあるので、そこをもっと多くの人に広めていきたい。僕が理想とする劇伴は、映像抜きで聴いてもインパクトがある楽曲。作曲家として主題歌も劇伴も心を揺さぶる楽曲を届けていきたいですね。
■SawanoHiroyuki[nZk] 7thシングル「narrative / NOISEofRAIN」

<CD収録内容>
1.「narrative」by SawanoHiroyuki[nZk]:LiSA
 ※『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』主題歌
2.「NOISEofRAIN」by SawanoHiroyuki[nZk]:Takanori Nishikawa
3.「Christmas Scene」by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki & Tielle
4.「Cage 」by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
 ※『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』劇中歌
<初回生産限定盤のみ収録>
5.「narrative (instrumental)」
6.「NOISEofRAIN (instrumental)」
■機動戦士ガンダムNT オリジナル・サウンドトラック
<CD収録内容>
1. Vigilante
2. symphonicsuiteNT-no1
3. symphonicsuiteNT-no2
4. symphonicsuiteNT-no3
5. symphonicsuiteNT-no4
6. symphonicsuiteNT-no5
7. Vigilante
8. synthenicsuiteNT-no1
9. synthenicsuiteNT-no2
10. pianoNT1
11. pianoNT2
12. pianoNT3
13. Vigilante (Inst)
14. Vigilante (Inst)
15. 機動戦士ガンダムUC RE:MIX0096

提供元: コンフィデンス

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