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湯浅政明監督のアニメ哲学「最大公約数のなかで自分ができることを探る」

『アヌシー国際アニメーション映画祭』で最高賞を受賞した『夜明け告げるルーのうた』や、Netflixで世界同時配信された『DEVILMAN Crybaby』などで世界中から高い評価を受けている鬼才・湯浅政明監督。『第31回東京国際映画祭』(10月25日開幕)では「アニメーション監督 湯浅政明の世界」と題した特集上映が行われるなど、日本でもアニメシーンをけん引する第一人者としての存在感を示す湯浅監督に、創作の哲学や日本アニメシーンの現状への想いを聞いた。

もっと多くの方に作品を観てもらいたい

――『第31回東京国際映画祭』では、特集上映が組まれますね。
湯浅政明昨年は原恵一さんでしたし、過去には偉大な監督たちの特集上映が組まれているので、僕でいいのかと思いました。誰か断ったのかな(笑)。ただ、もっと多くの方に作品を観てもらいたいと思っていたので、いい機会になります。大変ありがたいですね。
――昨年は『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』が劇場公開され、今年はNetflixで『DEVILMAN crybaby』が配信されました。湯浅作品が世界で注目を集めるなかでの今回の特集となったわけですが。
湯浅政明確かにここ数年は露出が多かったですからね。でも、次は大きなヒットも欲しいと思っていて。来年公開予定の新作(※『第31回東京国際映画祭』にて発表)がそうなるようにがんばっているところです。

――今回の特集では、湯浅監督の映画作品、配信作品、短編集が上映されます。どういった経緯でセレクトされたのでしょうか?
湯浅政明もともと映画は三本しかないですね。デビュー作の『マインド・ゲーム』を作ったときは、やりたいようにやりました。自分ではおもしろいと思っていたんですが賛否があって、いろいろな観方があることを痛感しました。それまではアニメーターが本職だったので、どういうふうに作品が観られるのか分からなかった部分がありました。それからしばらく意識的にテレビの仕事をしながらいろいろ試して勉強しました。それを踏まえての『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』という劇場2作品なので、合わせてもっと観て欲しいと思いました。
――『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』を含む「自選短編集」はスクリーン上映される貴重な機会ですね。
湯浅政明「自選短編集」は、テレビ作品のほか、長編作品のちょっとしたパートに参加したものや、DVD化されていないなかなか観られない作品の一部などです。最近の作品から観ていただいた方への、こういう作品を作ってきたんですよ、という自己紹介になると思います。『クレヨンしんちゃん』の「ぶりぶりざえもん」とか、DVD化されていない『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』で担当した音楽パートも上映できることになり、いい感じにセレクトできたと思います。

制作作品数が増えている現状は監督にとってはチャンス

――『DEVILMAN crybaby』は、配信ならではのエッジがきいた作品です。
湯浅政明『デビルマン』という原作自体が、テレビではできない内容。配信ならこれが作れるというのがありました。配信は、世界中の人が同時に観るというのが新しい。シリーズだけど一晩で一気に観る人もいたりして、観られ方も変わってきていますね。
――テレビ、映画、配信とそれぞれユーザー属性が違うと思いますが、どのメディアがご自身の作家性を出しやすいというのはありますか?
湯浅政明メディアというよりも、その作品に合わせて作るイメージです。「激辛料理を作ってもオッケー」と言われれば激辛にしますし、「ここは辛いのが苦手な人が多い」というのならば、あっさりしたものにしてみたいと思います。最初から激辛だけを作りたいわけでもないし、あっさりしたものが好きというわけでもないですけど、ときには激辛、ときにはあっさりしたものも作ってみたい、という感じです。そういうふうに対応して作っていくのがおもしろいので、どこがやりやすいとかはないですね。

――近年、アニメ制作本数は増えていて、シーンは盛り上がっているように見えますが、一方でDVDやブルーレイの売り上げが減少しています。そういったアニメシーンの現状をどう見ていますか?
湯浅政明10年前は作品数も減っていく一方という感じがありました。アニメは3Dしか観たくないのか、でもここにきて2Dの需要が上がったりとか、状況は常に変わっています。今は本当にたくさん作られてはいますが、そのどれもがうまくいっているわけではない。すべてに対して需要があるわけではないので、きっとまた減っていくんだろうとは感じています。ただ、これだけたくさん作られている現状は、いろいろな人が監督をやったり、作品を作ることができるチャンスでもあると思っています。

――ネット動画をはじめとしたアウトプットも増えています。
湯浅政明逆に、プロが作る意味を問われてもいます。今はパソコンで、ひとりで長編映画を作ることができる時代。ネットに多くのアニメがあふれるなか、製作費をかけて劇場作品を作るなら、それとは違うものを作らなくてはいけないと思ってやっています。

――アニメファンの楽しみ方が変わってきている側面を感じることはありますか?
湯浅政明そうですね。もうソフトにお金をかけないと言われて久しいですが、今は音楽業界でもCDよりコンサートや物販、映画もイベント化している傾向があります。作品への接し方が変わっていますよね。何回も劇場に観に行って、その作品のグッズを買って応援して、気に入った作品をヒットさせようという熱量の高いファンが増えているのも感じます。

――ご自身のスタジオ、サイエンスSARUの経営者としての顔もある湯浅監督ですが、この先、そういった現状にどう向き合っていこうと考えられていますか?
湯浅政明需要がある方向にどんどん舵を切っていくと思います。いろいろな楽しみ方があるなか、世の中に求められる形は1つではありません。毎日30秒の動画が観たいという人もいるでしょうし、映像クオリティよりもストーリー性を求める人もいると思います。かつてのように劇場公開の大作を誰もが待っている時代ではありません。自分の見方、感じ方も変わっていきますし、需要に合わせてやっていけるうちはどんどん変わっていこうと思っています。

提供元: コンフィデンス

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