エンタメ業界全体に新たな選択肢を提示する、ACGコンテンツ企画実現支援ブロックチェーン
“ガラス張りの状態”でクリエイター企画実現を支援
「企画成立の過程がブラックボックス化していてわかりにくく、成立したとしても最初のアイデアを生んだ発案者が軽視されがちな風土があります。また、実績のない人間にとっては当然ながら資金調達も難しく、スタッフや協力者などへの成功報酬も非常に限定された範囲でしか分配されない。こうした課題は、どうにか改善すべきだと思っていながら、従来の方法論では実現が難しいことでした。ですが、ブロックチェーン技術と暗号通貨によるスマートコントラクト技術の出現で、そうした命題が解決できる道筋が見えてきた。“ガラス張りの状態”でクリエイターの企画実現を支援していきます。ACGコンテンツを中心に扱うエコシステムを構築することで、クリエイターを含むエンタメ業界全体に新たな選択肢を提示できるはずです」(前田氏)
上海チームとのパイプ役でもあるCFOの庄宇杰氏との今年4月の出会いから、急ピッチで構想は練り上げられていった。
「独自のブロックチェーン、パブリックチェーン開発ができても、実際にどんな使い方をすればより世界に広がるのか。重要な用途の1つとしてACGコンテンツがあります。改ざんできず、所有者の権利を証明できるブロックチェーン技術は、そもそも著作権やIP保護に有効な特性がある。とくにアジア全域で強い支持のある日本のコンテンツ業界と一緒に仕事をすることで、大きなメリットが生まれると考えています」(庄氏)
日本のACG産業を世界へオープンにするための役割
「有名クリエイターの埋もれていた企画メモやラフスケッチなどが投稿され、改めて注目されることもあるでしょうし、何の人脈もツテもない人のアイデアがにわかに人気コンテンツに育つこともあるでしょう。実際に作品化される際や、二次利用される際など、全参加スタッフへの還元が可能になるというのも、モチベーションを上げるためには非常に有効です」(植田氏)
10月には、投票機能の実装を予定。さらに、ある原案をアニメ、実写、ゲーム化するためのそれぞれのパイロット版制作の発表も行うスケジュールとのこと。『ファミ通』『Walker47』などの編集長として知られる加藤克明氏は、この仕組みをどう見ているのか。
「有名ゲームクリエイターがずっと温めていてもなかなか実現しなかったようなオリジナル企画も、世に出せるチャンスが生まれてくるはず。一方で、ゲームそのものにブロックチェーンの特性を活かせる新たなジャンルも、現状の育成系に限らず生まれてくるでしょう。かなり楽しいことが起きそうです」(加藤氏)
最近では日中合作による岩井俊二監督作品『Last Letter』でアシスタントを務めたアニメプロデューサーの蔡愛蓮氏は、日本のACGコンテンツの可能性を客観的にどう捉えているのだろうか。
「このプラットフォームがきちんと活用されていけば、たとえば中国の3Dアニメ技術と日本の2Dアニメ技術がうまくミックスされた作品なども生まれてくるかもしれません。今、日本のクリエイターが中国や海外のクリエイターと交流を深めることは、将来の日本のACG産業が国内に閉じたものになってしまわないためにも、とても重要な作業だと思う。『ACG Network』は、そのきっかけになるのでは」(蔡氏)
β版ながら、すでに高松信司氏、下村健氏といった人気クリエイターによるプロデュース企画が複数登録されているACG Network。2019年春に予定される正規版スタートに向けて、改善点の洗い出しを続けながら準備は着々と進んでいる。
(文:及川望)