スポーツマンシップ協会設立 ネットでの過剰な誹謗中傷にも通じる「尊重」「勇気」「覚悟」の精神
今年6月に「日本スポーツマンシップ協会」設立
木村隆志確かにそうかもしれません。
中村聡宏でも、これは答えられなくて当然なんですよ。なぜなら、誰も「スポーツマンシップとは何か」を教えられて来なかったのですから。そんなスポーツマンシップを世に広めようと尽力されたのが、トヨタカップのプロデューサーを務め、日韓W杯開催にも尽力された、元電通の広瀬一郎さんという方。彼が2012年に設立したのが、「スポーツマンシップ指導者育成会」という組織。私はその活動に携わっていたのですが、昨年広瀬さんが急逝してしまったため、それを引き継ぐとともに、スポーツマンシップ指導者育成会を発展的に解消し、今年6月に「日本スポーツマンシップ協会」を立ち上げました。
木村隆志最近、日本のスポーツ業界は、各競技団体や組織からさまざまな問題が噴出していますよね。それを目の当たりにすると、中村さんのこの活動は、今最も必要とされているものにように思いますね。
中村聡宏スポーツマンシップは、何もトップアスリートを育てるためのものではなく、スポーツを通して、人の生き方を学ぶもの。上意下達ではなく、自分で判断できる人を育てるソフトだと思っているんです。
木村隆志でも、今の日本のスポーツ団体や組織に、それがあるのかと不安になります。日本はスポーツマンシップを発揮できない国なのではないか、と。
「尊重」「勇気」「覚悟」がスポーツマンシップの精神
木村隆志私も以前、スピードスケートの高木美帆さんにお話を聞いたことがありますが、彼女もまさに求道者でした。彼女たちのスポーツマンシップが、子どもたちにもいい影響を及ぼすようにしたいですよね。
中村聡宏これまで日本では、いわゆる体育会系の子たちが喜ばれてきました。純粋で従順、でも頑丈。さらに、多少のハラスメントにも心が折れないといった面が好まれてきた理由だと思います。しかし、スポーツの世界で大切なのは、従順さだけではなく、サッカーであればドリブルするのかパスなのか、はたまたシュートなのかを自分で判断し行動できる「勇気」と、勝利をめざして全力を尽くす「覚悟」なんです。
木村隆志「尊重」「勇気」「覚悟」が、スポーツマンシップにおける、3つの柱ということですね。体育の授業に、スポーツマンシップの項目があってもいいですよね。
中村聡宏そっちのほうが大事だと思います。運動が苦手な人のなかには、体育が嫌いという人も多いと思います。足が速いとか遠くに飛べるとか、身体能力の高さの比較で成績評価がつけられがちですが、自分の身体能力をどう伸ばすかが大事なわけですから、もっとその人自身が上達したかどうか、など個別性で評価してあげたほうがいいと思うんです。人事制度と同じですよね。
ネットで他人を叩く人にはスポーツマンシップがない
中村聡宏スポーツが複雑で魅力的なのは、“自分を倒そうとしている相手が、本気で攻めてくれないと楽しくない”ということです。「なぜ相手をリスペクトするのか?」の答えは、お互いに相手に本気で戦ってもらうため。敵ではなく、あくまでも対戦相手。その存在こそが、試合を楽しむことにつながるのです。
木村隆志その、「相手を尊重する」というスポーツマンシップの精神を、一般社会に置き換えるとしたら、どうなるんでしょう。
中村聡宏一般社会での対戦相手を、“自分から最も遠い人”とした場合、「自分とは反対の意見を持っている人」ということになるかもしれませんね。その人たちと意見を闘わせることで、自分の意見もよくなっていくし、考え方が変わったりもする。そういうことだろうと思います。
木村隆志多様性を認めるというのも、つまりそういうことですよね。
中村聡宏でも今は多様性を認めることに対して、寛容じゃないですよね。自分の意見が通らないとすぐにキレたり、世間の風を読んで多数派に回り少数意見をつぶしたり。SNSはそういう風潮を作りやすいツールだと思いますが、ネットメディアもそれを気にして、日和っているように感じることもあります。
木村隆志多数派でいたいのと、ネットがストレス発散装置になってしまっていて、それをまたメディアが利用している、というのが悪いほうに向いてしまう原因だと思います。自分の意にそぐわないだけの理由で誰かを批判しても、匿名のSNSなら責任取らなくてもいいですし。ストレス発散のためなら、人を貶めてもいいという風潮を作っていますよね。
本年8月以降の主なスポーツ競技日程
日本にはスポーツマンシップ教育が必要
木村隆志スポーツマンシップの3つの柱、「尊重」「勇気」「覚悟」を持つと、生きるのが楽しくなるということを教えてほしいですね。実際にそうじゃない人が、(ネットで人を)叩いてしまっていると思うので。
中村聡宏木村さんは記名で執筆活動しているんですよね。
木村隆志はい、めちゃくちゃ批判がありますよ。愛ある批判と呼んでいるんですけれど(笑)。私は人間関係コンサルタントという仕事もしているんですが、リスペクトがない人に悩みが深い人が多いと感じています。電車が遅延したときに怒る人とか。誰に怒っているのかと思うんですが、遅延の解消に力を尽くしている人がいることも忘れてしまう。そういうタイプは自分主語の人が多い。今は自分の時間を数多く作れるじゃないですか。好きなものを見て、好きなものを買って。その結果として、自分が好きなもの以外は敵、みたいな考えになってしまいがち。そういう意味でも、スポーツマンシップ教育が必要なんだろうなと思います。