大原櫻子、歌手と女優“二足のわらじ”で磨いた表現力
クリエイターの思いを受け止め、自分の声で届けることを今まで以上に意識
大原 今作にも収録されている6thシングル「ひらり」は、亀田さん作詞作曲なんですが、それ以降、このアルバムに至るまで秦 基博さん(7thシングル「マイ フェイバリット ジュエル」)、いきものがかりの水野良樹さん(8thシングル「さよなら」ほか)など、本当にいろんなアーティストの方に曲を書いていただいてきました。当たり前ですけど、やっぱり作る方によって作品の色がぜんぜん違って、「私にこの曲を!?」という驚きもあったりして、でもその色に染まっていく作業がとても楽しくて──。曲を作っていただいた方それぞれの発信したい思いを受け止めること、そしてそれを自分の声で届けていくことを、今まで以上に意識したレコーディングだったなと思います。
──確かに、これまでの大原さんのイメージになかった楽曲も多く、とても多彩なアルバムになっている印象です。
大原 前作アルバム『V』以降、わりと落ち着いた曲調のシングル曲が続いていたんですよね。20代を迎えて(現在22歳)、今までのような元気で明るく弾けているだけじゃない、もっと多面的な表現を身に付けていきたいという思いもあって。そんな自分の中での新しい表現の1つとして、今作では踊れるような曲やカッコイイ曲をいくつか入れられることができたなと思っています。クールな女性を演じるように歌った1曲目の「one」だったり、世間に対する反骨精神を歌った4曲目の「energy」だったり。こんなアグレッシブなロックは初めてだったんですが、内容的にも歌っていてすごく気持ちよかったです(笑)
大原 そうなんです。多保さんもこのアルバムを制作するうえで大きな存在だった1人。今作ではほかにも「Close to you」(12曲目収録)というピアノバラードを書いていただいたんですが、こちらは歌い手としてとても伸び伸びと、気持ちよく歌わせていただけるような楽曲なんです。だけど、「Joy&Joy」は未知の世界で。普段、楽曲をいただくと自分が歌ったらどんな仕上がりになるか大体イメージができるんですけど、この曲のパーティー感というか、腰から入るようなノリの曲は初めてで。でも歌ってみると、理屈抜きに気持ちよくなっちゃう。テクニック的には難しいんですけど、そんな不思議な力のある曲でしたね。
──大原さんの伸びやかなハイトーンがこんなにもソウルにハマるとは!と、聴く側にも嬉しい驚きと発見がありました。
大原 歌っていると、ジャンヌ・ダルクみたいな気分になれるんです(笑)。男性のコーラスが入っているからというのもあるけど、みんなを先導して引っ張っていくような、カッコよくて強い女性みたいな歌詞なので。たぶん、今回のツアー(6月28日〜7月20まで全9公演開催)には間に合わないと思うんですが、きっちり仕上げていつかダンサーを従えて歌うような表現にも挑戦したいですね。
自分をいろんな角度から客観視しながら、やりたいことも追求できた
大原 そうですね。アップテンポな曲はやっぱり楽しいですし、夏のアルバムでもありますしね。元チャットモンチーの高橋久美子さん作詞、水野良樹さん作曲の「夏のおいしいところだけ」(6曲目に収録)は、まさに女の子の夏の楽しみがギュッと詰め込まれていて。そんな中に“ちゃんと生きよう”というような、ハッとするメッセージが入ってきて。もともと、繊細で可愛らしくて上品な高橋さんの歌詞の世界観が大好きだったんですが、改めてすごいなぁと思いました。
大原 この曲も、いただいた時はすごく意外だったんですよ。私自身、いきものがかりさんの曲もよく聴いていましたし、私に書いてくださるならきっと明るい曲だろうなと思っていたら、まさかの失恋ソング。しかも、とても大きくストーリー性がある曲で。でも水野さんは、「僕はこれを悲しい歌じゃないと思ってる」とおっしゃったんですね。「だからこそこの曲は、サクちゃん(大原)の明るくて前向きな声で歌ってもらいたい」と。そんな言葉も思い出しながら、歌い出しの「さよなら」と、最後の「さよなら」にはぜんぜん違う意味合いを込めようと、意識して歌いました。
──大原さんの声の魅力を理解したうえで、水野さんはこの曲をぶつけてきたんですね。
大原 自分に客観的になることって大事で。徐々にできるようになってはいると思うけど、やっぱりいただく楽曲や周りの方に気付かせていただくことは多いですね。そういう意味では、今回はいろんな角度から自分を客観的に見ることができて、そのうえで自分のやりたいことも追求できた、とても充実したアルバム制作でした。
──あとやっぱり気になるのは、大原さん作詞の「いとしのギーモ」(11曲目収録)です。聴いていて楽しくなっちゃう曲ではあるんですが、歌詞が謎めいていて……?
大原 なんのことを歌っているのか?ってことですよね。皆さんには「ギーモってペットのこと?」「ギターの名前?」って聞かれたり、なんならネットで「ギーモ」って検索する方もいたりするんですけど、これはですね…深読みしてはダメなんです(笑)。答えはサビの歌詞を縦読みしていただくとわかるんですが、私の愛してやまない“アレ”の歌です。
──アレとは……まさかの“SNGM”!?
大原 そうなんです。この曲のメイキングムービーも観ていただけたら一発で答えがわかっちゃうんですが、かなりシュールな映像になっています(笑)。答えを知っちゃうと本当におフザケな曲なんですけど、アルバムのタイトルも『Enjoy』だし、やっぱり遊び心は入れなくちゃ!ということで。でも、意外に素敵なポップソングに仕上がって良かったなって。“SNGM”のコール&レスポンスは、ぜひライブでもみんなでやりたいですね。
いかに深く役に染まるか――ミュージカル経験がアルバム制作でもすごく生きた
大原 まだたったの5年です。ただその中に、大学生活の4年間がすっぽり収まっていると考えると、それはもう濃厚な5年間だったなと思います。でもこの仕事は“一生学び”だと思うので、学校を卒業してもまだまだこれからだなという気持ちでいます。
──大原さんの場合、「この仕事」というとアーティストと女優の両方を指しますが、それぞれの相乗効果はどのように感じていますか?
大原 最近のことだと、今年2月に『ファン・ホーム』というミュージカルに取り組むなかで、演出家の小川絵梨子さんに“いかに深く役に染まるか”ということを、愛情を持って教えていただいたんですね。その感覚は今でも鮮明で、それが今回のアルバム制作でもすごく生きたんです。それこそ今作は、どの曲も際立って色が濃かったので、その色にどれだけ深く染まるかが勝負で、ときには歌の世界に入り込むためにスタジオの照明を落として歌った曲もありました。そういう意味でも1曲ごとの振り切り方や幅は、今までのアルバムで一番突き詰められたんじゃないかと思うし、それもお芝居の仕事をしていなかったらできなかったことだと思います。
──“まだ5年目”とおっしゃるように、今後さらに音楽的に進化していくことに期待したいですが、ご自身では何か「こうなりたい」といった欲はありますか?
大原 私は昔から演歌や歌謡曲が大好きなんです。聴く人を酔わせたり、心をしみじみさせたりするのって素晴らしいなと思っていて。ジャンルとして演歌・歌謡曲を歌うかどうかは別として、私もいつかそんな人生そのものを歌って酔いしれさせるような歌が歌えるようになりたいです。
文:児玉澄子
(週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』より)