ミッツ・マングローブ「人生は、ごっこ遊び」 本気の遊びから生まれる新時代の歌謡曲

 バラエティ番組への出演をはじめとするタレント業のほか、アーティストとしても活動を続けるミッツ・マングローブ。今年1月には、作家・五木寛之氏の作詞・作曲によるシングル「東京タワー」をリリース。また、05年にギャランティーク和恵、メイリー・ムーと結成した音楽ユニット・星屑スキャットでは、単独公演を行うほか各種イベントに出演し、4月には結成14年目にして初のアルバム『化粧室』を発表した。ミッツに充実の度合いを増す音楽活動について話を聞きつつ、アーティストとしての根底にあるものを探ってみた。

私って、こんなに下手だった!?

――ソロシンガーとしての活動と、星屑スキャットでの活動は、どのように分けているんでしょう。
ミッツ・マングローブ ソロはたまにしかやりませんけど(「東京タワー」はソロとして6年ぶり3作目のシングル)、その時は「まな板の上に載ろう」という意識で、ユニットの方は「自分で舵を取ろう」と思って活動しています。星屑スキャットは、自分を含めた3人のメンバーをプロデュースするという感覚でやっていますね。

――「東京タワー」を歌おうと思ったのは?
ミッツ それはせっかく声をかけていただけたことですし、私としてはやらないと決めていたわけではなくて、単に6年間そういうお話がなかっただけのことですから(笑)
 「東京タワー」は、恋を失った主人公が1人歩く道すがら、胸の辛さを視線の先の東京タワーに向けて訴える内容。Bメロまでの囁くような歌い方と、切なさを歌に乗せたサビの対比が胸中を表して印象的だ。
  • ミッツ・マングローブ「東京タワー」

    ミッツ・マングローブ「東京タワー」

――「東京タワー」で聴かれるボーカルスタイルは、どのように出来上がったものですか。
ミッツ 私自身のスタイルなんてわからないと言うか、無いので、いろいろな方の歌い方をマネて試してみた結果です。でも、それではすんなりと答えが見つからないような難しい曲で、仮のボーカルレコーディングの後に自分の歌を聴いたら、あまりに歌えていないので愕然として、「私って、こんなに下手だった!?」って挫折に近いものを感じたんです。でも、そうも言っていられないし「やらなきゃ!」と思っていたら、五木先生がいろいろ言葉をかけてくださったので、それに沿うように努めた結果ですね。でも、ソロはあまりやっていないってこともありますけど、苦手です。恥ずかしくて、緊張しちゃいます。進んで前に出て行くっていうタイプではなくて、2番手、3番手にいて、ほかのメンバーの補足をするみたいなのが得意で、自分に適した役割だと思っているんです。そういう意味でも、星屑スキャットでは真ん中にいないから、若干逃げ場があるぶんやりやすいんです。

歌謡曲という先入観を超えた『化粧室』

――『化粧室』は、そのやりやすさがあるうえに、元々好きなことができているからでしょうが、とても充実した内容になりましたね。
ミッツ 編集作業も割と好きで、もう時間がないからそろそろ切り上げないと駄目ですよって怒られるまで、ずっと音の調整なんかをやっていましたから、中身はそれなりに濃くなっていると思います。
  • 星屑スキャット『化粧室』

    星屑スキャット『化粧室』

 アルバムには、12年2月発売のメジャーデビューシングル「マグネット・ジョーに気をつけろ」(1978年に発売されたギャルの2ndシングル曲のカバーで、作詞は阿久悠、作曲は川口真)をはじめ、3人がこれまでに発表してきた楽曲に新曲を加えた12曲入りDISC-1と、リリー・フランキーが“エルビス・ウッドストック”名義でプロデュースと作詞をした「新宿シャンソン」を収録したDISC-2の2枚組。
――単純に歌謡曲のアルバムだと思って聴いたら、リミックスバージョンは入っているし、インタールード(本来は幕間の意で、曲間に挿入される楽曲のこと)まであって、先入観の枠を超えていたので、より楽しめました。
ミッツ 特に80年代あたりの音楽が好きなんですけど、その頃によく聴いたユーミン(松任谷由実)とか(山下)達郎さんとか、大滝(詠一)さんとかのアルバムの流れを参考にしたり、ジャネット・ジャクソンのアルバムでインタールードだらけのアルバムがあったのを思い出して、この曲(M10「コスメティック・サイレン」)は音としては、それ以上イジリようがないから、インタールードを挿もうなんて思って入れてみたり、そういうのは時間がかかったって、やりたくてやっていることだから、そういう好きなことが仕事になっているのって幸せだなと思いますよね。まぁ、私がやっていることはみんな、「ごっこ遊び」なんですけど。

作品に注ぎ込まれた、ごっこ遊びへの情熱

――ごっこ遊び?
ミッツ 私、人生はすべてが「ごっこ遊び」なんです。ごっこ遊びが大好きなの、妄想も含めて。素を出すとか生身を晒すなんてことは絶対できなくて、基本的に化粧や衣装でフィルターをかけていないと生きていけないんです。だから、歌っているのも「歌手ごっこ」なんです。自分が大好きなあの人みたいに歌いたいとか、こういうステージをやってみたいとか、そういうことを少しずつ形にしてきたんです。
  • 星屑スキャット

    星屑スキャット

 さっき、自分のスタイルなんかないって言いましたけど、ずっと、「ごっこ」で生きてきているから、それが当たり前と言えば当たり前で、自分がないから、いろいろな人に憧れて、そうなりたいって思うんでしょうね。もうオリジナルの自分には興味がないんです。それでも、我は強いし頑固だから、本当に面倒くさい(笑)。

 10代の頃には自分で歌を作って、将来はそれで生きていけたらなんて思ったこともありましたけど、社会に出たら基本は水商売で、この仕事って、次はいつ来るかわからない。その日、その日のお客さんが相手だから連続性が無いんです。そのせいか、そういう性格だからこの仕事に就いたのかわかりませんけど、基本的に編集しない生が好きなんです。だから、これまで星屑スキャットで10年以上活動してきながら、ここまでアルバムを出していなかったんですけど、作ってみたら、まとめることって大事だなっていうことに気付きましたね。
――歌い手であると同時に、プロデューサーという意識で制作できたことが良かったんでしょうが、好きだという80年代のヒット曲の要素がいろいろと盛り込まれて、結果的にミッツさんのアーティストとしての資質が窺える作品になりましたね。
ミッツ それはあると思いますけど、私だけじゃなくて、このアルバムの中では3人がそれぞれにごっこ遊びをしてるわけですから、見方によってはかなりとっ散らかっていて、それを面白いと思ってくださる方もいるでしょうけど、散漫と感じる方だっているでしょうね。
 アルバムの内容は、ひと言で表すと多彩。しかし、多彩さこそが歌謡曲の魅力だとすれば『化粧室』には歌謡曲の魅力が詰まっていると言えるだろう。なかでも秀逸なのは、5年ほど前に作られて、以降ステージなどで披露されファンの心を震わせてきたという「新宿シャンソン」。8分を超えるバラードは、一般的な歌謡作品に比べてかなりの長尺だが、最後まで聴き手を惹きつけて放さない魅力は、6分を超えながら英米はもとより日本でもヒットしたクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を思い出させる。

 ちなみに、ミッツがプロモーションのために『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)に出演した際に語っていたが、この曲のMVが完成したのはアルバムの発売後。MCのマツコ・デラックスによれば、「(時間もかけて)それを全部この人の私財で作ってるのよ」(その言葉をミッツは「全部ではないけどね」と否定していたが)とのことで、そこには前述で「怒られるまで、ずっと音の調整なんかやってました」と話していたミッツの、歌や作品への情熱を感じることができる。例え「ごっこ」でも、ここまで本気でやれば、こんなにも素晴らしいのだと思わせられるMVは、リリー・フランキーが総指揮を務め、白石和彌氏が監督、女優の蒼井優が出演している。未見の方はYouTubeで公開されているので、ぜひ。

求められるものに応えながら、ちょっとだけ期待を裏切って

――ミッツさんには、目標とか憧れのスター像はあるんでしょうか。
ミッツ ありますけど、好きなアーティストがたくさんいて、それが日々替わるので、その日その時で、ごっこ遊びを続けていくんでしょうね。大好きなのは、V6と(中森)明菜ちゃん。ベン・フォールズ・ファイヴもジョ−ジ・マイケルもやっぱりいいなぁと思いますけど、そういう好きな気持ちが次の活動につながっているんですよね。持っているものより無いものの方が多いから、好きなアーティストに近付くために、欠けたピースをなんとか埋めるように頑張って、それでやりたいことをやってっていうのを続けてきたので、これからもそうやって続いていくんだと思います。

――頭の中にはやりたいことがまだまだ詰まっていそうですね。
ミッツ ありますねー。でも、私たちを好きで期待してくださっている方たちがいらっしゃるので、独りよがりにならないように、求められるものに応えながら、時代性も加味しつつ、そしてちょっとだけ期待を裏切るという感じでやっていきたいと思いますね。でも、続けていくには、より多くの方に私たちのことや作品を知っていただくことが必要なので、まずはヒットを出したいって思います。

――そのヒット作品は、きっとその時代の歌謡曲の象徴的なものになると思います。それがどんなものか楽しみにしながら、ますますの活躍に期待したいと思います。ありがとうございました。
ミッツ こちらこそ、ありがとうございました。

文:寧樂小夜

(『コンフィデンス』 18年6月25日号記事を加筆して掲載)

提供元: コンフィデンス

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