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気鋭プロデューサーが語るオープンイノベーションの極意

 学生時代、テクノロジーの可能性に魅せられた西村真里子氏。IBMでエンジニア、Adobe Systemsでマーケターなど、多様なキャリアを経た後、2014年に「HEART CATCH」を立ち上げ、国内外のテクノロジーを軸に新しい価値や体験を生み出すコンサルティング・プロデュース事業などを手がけている。テクノロジーの進化は加速していくばかり。エンタテインメント業界はもちろん、各業界ではテクノロジーをどのように取り入れ、また向き合っていきべきだろうか。西村氏にそのヒントや心得を尋ねた。

異なる領域の才能やアイデアをつなぐハブになる

――3月まで編集長を務めておられたwebメディア『SENSORS』では、テクノロジーを起点にしたさまざまな動きを紹介し続けながらイベントも盛んに開催し、エンタメ業界にも多くのヒントを与えていたと思います。一方で、一般企業などに向けた研修やワークショップなどを手がけ、マーケティング系メディアにも寄稿するなど、多彩な動きをなさっている。ご自身ではいわゆる本業をなんだと定義しているのでしょうか。
西村 一見、やっていることはあれこれ幅広く見えるのかもしれませんが、あくまでテクノロジーを軸に、デザインやマーケティングの力などを効果的に組み合わせて、いかに楽しくて新しい価値や体験を生み出せるか、という点では揺るぎないスタイルだと思います。さまざまな異なる領域の才能やアイデアをつなぐハブになる、というのが基本的な姿勢。テクノロジー系の専門家やスタートアップ、デジタルクリエイターといった人たちと、これまでそこにあまり接点がなかったような業界の方々を結びつけることで、何が起きるのか見てみたいという好奇心が原動力になっているのかもしれません。

――昨年秋、エイベックスが主催した初のハッカソン『avex-xRハッカソン』でも、実現に向けて全面的に協力されたと聞いています。特に音楽や映像などのエンタメ業界とテクノロジーとの相性、親和性についてはどう感じますか。
西村 エイベックスさんは特に明確ですが、テクノロジーを使って音楽と人の暮らしの“新しい関係”をどうアップデートするかという取り組みが、放送局なども含めエンタメ業界でどんどん増えてきているように思います。そういう人たちと、スタートアップやデジタルクリエイターのネットワークを活かして、例えばどういうエンジニアさんと組んでどういうプロジェクトを起こしたら面白く見えるのか?といった話をする機会も多い。もしかすると、生き残りをかけてとにかく変わらなければ、何かやらなければ、というプレッシャーが先行してしまっている段階なのかもしれませんが、それでも物事が動いているという意味では、少なくともポジティブな状況だと捉えています。

 ここで、良い意味でのプレッシャーを“てこ”にした先行事例がどんどん生まれてくれば、アップデートの動きも加速するでしょうし、私もそのサポートをしっかりやっていきたい。例えば、ステージ演出やパフォーミングアートの領域ではライゾマティクスさんたちがやっている仕事が、他のクリエイターさんたちを刺激し、けん引していますよね。エンタメ業界全体でも、同じような現象が起きつつあるのではないかとも感じます。そういう意味でも変革期なのだと思いますね。

ネットワークやスキルを明かすほど、自身のコンピテンスも上がっていく

  • HEART CATCH 代表取締役の西村真里子氏(撮影:逢坂聡)

    HEART CATCH 代表取締役の西村真里子氏(撮影:逢坂聡)

――とはいえ、では具体的に何から始めたらいいのかと困惑しているような人も多いと思います。ワークショップなどでは、どのようなサジェスチョンを行っているのですか。
西村 さまざまなアプローチはあるのですが、基本的に受け身ではなく、自分から発信するマインドを確立するのがいかに大切かを伝えるようにしています。オープンに発信し外とつながること。意識を外に向け、自分のネットワークやスキルをオープンにすればするほど、実はその人のコンピテンスも上がっていく、という考え方を納得してもらえるような方向付けができるよう心がけています。

――キャリアのスタートはIBMのエンジニアからだと伺いました。もともと理系だったのですか。
西村 いいえ。大学時代に舞台照明について真剣に取り組んでいたのですが、それまで紙に図面を引いていたような部分をパソコン上でシミュレーションできるソフトが登場してきて、すごく感動したんです。パソコン及びインターネットを活用することの可能性に興奮しました。当時のIBMは文系でもエンジニアとして迎えるよう門戸を開いていたこともあり、この世界に飛び込んだわけです。
――その後、エンジニアからマーケティング畑に転身。これもかなりの飛躍のように思えます。
西村 IBMで、検索エンジンに多言語で検索しやすい仕組みを実装することについてチームで取り組み特許を取ったりして、それなりの充足感はもちろん感じていました。ですが、その仕組みを使ってもらうため、異なる部署に情報発信していくプロモート作業をやっていくうち、作るのも楽しいけれど広めるのも楽しいと気付いてしまったんですね(苦笑)。そこから、社内のキーパーソンに交渉し、こんなことをやりたいんだと自分でプレゼンして、マーケティング部署に異動させてもらった。

 さらに、もう少し小さな会社でフットワーク軽く自分でコントロールしながらマーケティングをやりたいと思って転職して、というような流れです。ただ、キャリアの最初の5年ほどをエンジニアとして没頭していたことは、現在も役立っていますよ。スタートアップの方やエンジニアさんと話をする際に、一応話はわかるし、なんとなくでも信用してもらえるというのもありがたいことですね。

リカバーできる体力があるうちに、新しいことに挑戦するべき

――IBMやAdobe Systemsといったテクノロジーの最先端にいたことは、感度を鍛える意味でも役立ったのでしょうか。外部の人間としては、『コンシューマー・エレクトロニクス・ショー』(CES)や『サウス・バイ・サウスウエスト』(SXSW)などに足を運んで刺激を受けることも重要なことだとは思っているのですが。
西村 私も会社を立ち上げた2014年以降は特に、そうした場に直接出向いて定点観測を続けるよう心がけています。IBMやAdobeのようにテクノロジーの最前線に社内で触れられた環境というのは、実は非常に恵まれていたのだと改めて思います。今は意識して情報を取りにいかないと。

 CESは大企業からスタートアップまで生のネタがそろっていますし、SXSWは以前ほどの熱はないとも言われていますが、それでも最前線のすぐ近くのデモンストレーションに触れることができる。ただ、このところ熱量の高い中心点がアメリカから少し分散してきているかな、という印象はありますね。今年の『ミラノサローネ』には、Googleがさりげなく生活に溶け込むテクノロジーといった趣で初出展していますし、フランスの官民を挙げた『ビバ・テクノロジー』には5000社以上のスタートアップが集まるなど、ほかにも注目すべきイベントは多い。

 音楽とテクノロジーのお祭りということで言えば、バルセロナの『ソナーフェスティバル』が今年は25周年。アメリカの大型音楽フェス『コーチェラ・フェスティバル』などもそうですが、新しいテクノロジーやアイデアをお披露目する際に、多くの人が集まるフェスは、とても魅力的な装置として機能するのだと思います。
――日本でもエンタメ×テクノロジーの祭典のような試みが支持され、定着する可能性はあるのでしょうか。
西村 そこでも大切になってくるのは、いかにオープンにしていくかだと思います。エンタメに限らず多くの産業で、国内に閉じていられないという流れは変わらない。放送ならオンデマンドやネット同時配信、グローバル配信といった展開も込みでコンテンツ戦略を考える必要が高まってくるでしょう。その際に求められるものの1つは、今までライバル関係にあると思われていたようなプレイヤーたちが手を組んで、他の領域を巻き込みながら何かを起こす、といった突破力のある取り組みだろうと思います。

 個人の仕事レベルでも、属人的な暗黙知のスキルやノウハウを、いかにわかりやすく共有し、伝えていくかがますます大事になってくると思います。そういう意味でも、失敗してもリカバーできる体力があるうちに、新しいことに挑戦するほうがいいですよね。トライ&エラーのナレッジをチームに蓄積できることも大きいですが、閉塞感を持っているような人たちに、自分たちでもできるという希望を与えることができる。私も、「そこに未来があるよ」と旗を振り続けますし、期待感やワクワク感を作り出すサポートをしていきたいと思います。

文/及川望 写真/逢坂聡
西村真里子(にしむら まりこ)
 国際基督教大学卒業後、IBMでエンジニアに。その後、Adobe Systems、Grouponでマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て、2014年に人々の「心」を掴む商品やサービス、プロモーション等のプロデュース業を行うHEART CATCHを設立。国内外のテクノロジーに関する知識や人脈、マーケティングスキルを総合的に活用した企業コンサルティング、新規事業開発サポートなどを幅広く手がける。日本テレビ「SENSORS」プロジェクト元編集長。孫泰蔵氏率いるコレクティブ・インパクト・コミュニティーMistletoeメンバー。
(『コンフィデンス』 18年6月11日号掲載)

提供元: コンフィデンス

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