和楽器バンドに見る 2020年に向けたアーティスト戦略
2020年を1つの到達点に国内外で同スピード展開
日本伝統の和楽器とロックバンドを融合させた唯一無二のサウンドで、国内外にファンを増やし続けている和楽器バンド。昨年はアメリカ単独ツアーを成功させ、来年1月には神奈川・横浜アリーナ公演を控えるなど、ライブ動員もうなぎのぼりだ。「日本の伝統芸能をよりポップに世界に広げる」ことをコンセプトに、プロモーションもデビュー当時から国内と海外で同時並行的に展開してきた。その成果から、デビュー翌年の15年には台湾単独ライブが3 分で完売。16年にはLive Nation の招聘によるニューヨーク単独公演を成功させている。
一方でデビュー以来、メディアへの露出は抑えてきたが、今年半ばより音楽番組に出演するなど、マス展開へと大きく舵を切り始めている。このメディア露出のタイミングについて、デビューの準備段階から彼らとともに歩んできた和楽器バンドのゼネラルプロデューサーの深川誠二氏は、その出会いを振り返って次のように語る。「彼らと初めて会ったのは13年、五輪招致が決定する数日前のこと。そしてライブを見た瞬間、このバンドの過点として2020年は大きな意味を持つと確信しました。デビュー以降は、“20 年までにバンドの存在感を国内外で確立する”ことをブランディングのテーマとしてきました。その上で最も重視したのは、彼らの本質を伝えること。それだけにメディア露出には慎重になっていました」(深川氏)
ライブのリピート率は8割 新規客倍増のカギは“代弁者”
レーベルの調査によると、ライブのリピート率は約8 割。さらに会場規模は年々大きくなっており、新規客も増えていることが窺える。ボーカルの鈴華ゆう子は、コアファンのことを「代弁者」だと語る。「和楽器バンドを聴かず嫌いしている方には、いくら私たちが声をあげても届かない。それよりもライブに来てくれた方が、「このバンド、すごくいいよ」と熱弁してくれたほうが説得力があります。実際、SNS などを見ていると口コミの力の大きさを感じます。だからこそ1 つひとつのライブで飽きさせないこと、また行きたいと思ってもらうことを大切にしています」(鈴華ゆう子)
昨年は日本武道館、今年は東京体育館2daysでのライブを成功させ、色眼鏡で見る人の誤解を解いてくれるであろう「代弁者」も十分なボリュームとなった。「20年に向けて一般認知度をもう一段階アップさせるため、いよいよメディアの力をお借りするタイミングだと判断しました」(深川氏)
ベスト盤の発売も、「初めて和楽器バンドのアイテムを手に取る方への名刺代わり」(鈴華)と、一般認知が広がりつつある今だからこそ意味がある。加えて深川氏は「ベスト盤は手に取りやすいからこそ、次の新曲が重要」と常に先を見据えている。さらにスケール感を増すであろう和楽器バンドの次の一手が楽しみだ。
(文/児玉澄子)
[コンフィデンス 17年12月11日号より]