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古沢良太氏が語るオリジナル脚本術「おもしろい!という最初のイメージが大事」

ドラマ、映画、舞台と数々の話題作を生み出しているヒットメーカーであり、売れっ子・脚本家の古沢良太氏が、漫画実写化作品があふれ返る映画シーンにオリジナル脚本で勝負を挑む。そんな新作『ミックス。』を通して、今の時代感や空気感を絶妙にすくい取る古沢氏のクリエイティブワークを掘り下げた。

キャスト決定後に脚本修正した結果、重層的な仕上りへ

――今作は、大ヒットドラマ『リーガルハイ』シリーズ、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』、映画『エイプリルフールズ』をともに手がけた、フジテレビプロデューサーの成河広明氏、石川淳一監督とのゴールデントリオ待望の最新作ですね。
古沢良太『エイプリルフールズ』が終わってすぐ「また映画をやろう」という話が3人の間で出ていて。すごくシンプルに、観客にストレートに気持ちよくなってもらえる映画を作ろうというところから企画が始まりました。いろいろなアイデアを出し合うなかで、卓球の男女混合(ミックス)ダブルスを題材に、ラブコメをやろうと提案しました。

――主演の新垣結衣さん演じる元卓球少女の多満子と、瑛太さん演じる多満子とペアを組む萩原のキャラクターは、当て書きされたのですか?
古沢良太脚本を書き始めたときには、まだキャストは決まっていなかったので、当て書きではありません。ただ、わりと早い段階で新垣さんの出演が決まりましたので、自然とイメージして書いた部分はあります。
――2人が所属する卓球クラブのメンバー役に、広末涼子さん、佐野勇斗さん、田中美佐子さん、遠藤憲一さん。多満子のライバル役には、瀬戸康史さん、永野芽郁さんとオールスターキャストが顔を揃えました。
古沢良太最初は、主人公の2人を邪魔しない、最小限の役割でいいという気持ちで書いていましたが、成河さんが続々とすごいキャストを決めてきて(笑)。せっかく出演していただけるならば、それにふさわしい厚みのある役にしようと脚本を修正しました。結果、それが重層的な感じになり、作品としてとてもいい方向に進んだと思います。なかでも弥生は大事な役で悩んでいたのですが、広末さんに決まってからキャラクターが固まって、一気に書き上げました。

――脚本執筆時のイメージを超える名演もありましたか?
古沢良太もちろん!生瀬(勝久)さん、そこまでやるの!?とか(笑)。とくに瑛太さんはすごいなって思うことが多々ありました。僕はギャグのつもりで書いた、多満子や観客が勝手に勘違いするセリフがあったんですけど、瑛太さんはちゃんと気持ちを込めていて。70年代の俳優さんのような、トゲというか、危うさを内包した感じ。本来そういう狂気を持った人が、こういう明るいラブコメに出てくれたことで、作品に深みを与えてくれたと感謝しています。新垣さんに対しても「そんなことやるんだ!」ということをいろいろと仕掛けていて。それにまったく動じず、堂々と受けて立つ主演女優さんも、ものすごく頼もしいなと(笑)。2人を見ているだけで飽きなかったです。

自分のやりたいことより、求められることをやるのが仕事

――撮影現場にも足を運ばれたそうですが、石川監督の演出はいかがでしたか。
古沢良太(全日本卓球選手権・神奈川県予選の)決勝戦の撮影を見ました。石川さんなら、手に汗握る感じでリアルに卓球を撮ってくれるだろうと信頼していました。自分のセンスで攻めてくる部分もあるけど、よく考えられる真面目な方です。僕とは感性がまったく違うところがどういうふうに結実するのか、その化学変化が楽しみでした。

――現場でご覧になったクライマックスシーンは、緊迫した画と多満子のモノローグ(セリフ)のラリーが爽快でした。
古沢良太卓球のラリーのテンポ、スピード感を意識して書いたつもりです。映画全体が、そのテンポ感でいけたらいいなと思っていました。それまでの経緯を語る序盤の部分も、短いシーンをたくさん立て続けに書いて、一気に見せる構成を考えました。2時間に収まる分量の脚本ではなかったんですけど、駆け足的な感じのない、いいテンポで収まっていたので、ありがたかったですね。
――卓球をきっかけに、前に踏み出す勇気を取り戻す多満子の不器用ながらも美しい姿は、一度失敗した人に不寛容な、現代社会に対するアンチテーゼのようにも感じました。彼女が辿り着く「私ががんばらなきゃいけないのは…私のためじゃないから」という着地点には、どのような思いを込められたのですか?
古沢良太この脚本を書いているときによく考えていたテーマでした。世の中を見ていると、みんな幸せになりたいって言う。自分が幸せになることに対して疑いがない。でも僕には「そんなに幸せになりたい?」という気持ちがあったんです。自分のことを言えば、僕は子どもの頃から絵を描くのが好きで、漫画家になりたかったんですけど、少しずつ道がズレて脚本を書くことになった。好きな仕事ではないし、そんなに長くは続かないだろうと思っていたけど、いつの間にか脚本家と呼ばれるようになっていて。よくそれを「才能」と言われるけど、別に自分がなりたかったものではない。仕事ってとくにそういうもので、自分が何になりたいとか、何をしたいとか、そんな気持ちよりも人に求められることをやればいいんじゃないのか?と思い始めた時期でした。この映画は結局、多満子が自分の才能は自分のためにあるんじゃなくて、人のためにあるんだって気づく話。それが、これを書いている頃の僕の気持ちでした。

――能力は自分のためではなく、誰かのために使うものというテーマは映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』にも通じますが、自分1人では幸せにはなれないという多満子の気づき、自己完結に終わらず、周囲へと視野を広げていく姿には、より成熟したものを感じます。
古沢良太『ミックス。』という題材を選んだからには、隣にいる人の力を表現するテーマに辿り着きたいという気持ちがあったんです。多満子自身が輝くことで、周りにいる人たちも照らされるというところに、書きながら辿り着けました。

最初に思い描いたものをいかに最後まで持ち続けるか

――先ほど漫画家になりたかったというお話が出ましたが、最近はショートコミック『ネコの手は借りません。』や、子ども向け哲学人形劇『Q〜こどものための哲学』(NHK Eテレ)の脚本を手がけられるなど、仕事の幅が一段と広がっている印象を受けます。さまざまなジャンルに共通する、ヒットメーカーとしてのこだわりはありますか?
古沢良太自分らしさなんてものは信じていないので、むしろ気にしないようにしています。オリジナルを求められるようになって、こういうものを作ったら絶対におもしろい!という最初のイメージを大事にしています。脚本を書く過程で、どうしても薄れたり、忘れていってしまうことがあります。たとえば撮影の詳細をつめていくと、現実的な要望に合わせて脚本を直していくうちに、最初に思い描いたものがどこかへいってしまうこともあるわけです。だけどそこを忘れずに、いかに最後まで持ち続けていられるか、それが一番大事なことだと思います。

――「続けたくても続けられないヤツもいるんだよ」という萩原のセリフがありますが、脚本を書き続けていくために、心がけていることはありますか。
古沢良太とくにないです(笑)。いつも一生懸命やってはいますけど。僕は脚本家になりたかったわけではないけれど、1人でコツコツとものを作る仕事に憧れていたのはその通りなので。毎朝起きて、パソコンに向かって脚本を書いて、悩んでは消して、また最初から書き直してを繰り返しながら、書いたものを人に渡して。それがドラマや映画になって、人が観て喜んでくれて。今はまた悩みながら次の作品を書いていて…そういう日々を送れることがすごく幸せだし、思い描いていた日々だと思います。移り変わりの早い世の中で、いつまで僕が求められているかわかりませんが、1日でも長くこういう人生を送っていけたらいいですね。昔から藤子・F・不二雄の藤本弘先生に憧れていました。藤本先生は、毎朝決まった時間に自分のスタジオに行って『ドラえもん』を描き、決まった時間に家に帰ってという生活をずっと続けられていました。休まずに、次から次へと作品を描き続けた人です。とくに日常生活で派手なことをするわけじゃなく、ただコツコツと毎日描き続ける日常を送る姿が、とてもカッコイイと思います。
(文:石村加奈/写真:草刈雅之)

ミックス。

 母のスパルタ教育により、かつて“天才卓球少女”として将来を期待された28歳独身・多満子(新垣結衣)。母の死後、普通に青春を過ごし、普通に就職する平凡な日々を送っていたが、会社の卓球部のイケメンエース・江島(瀬戸康史)に告白され付き合うことに。ついにバラ色の人生が!と思った矢先、新入社員の美人卓球選手・愛莉(永野芽郁)に江島を寝取られてしまう。
 人生のどん底に落ち、逃げるように田舎に戻った多満子だったが、亡き母が経営していた卓球クラブは赤字に陥り、自分の青春を捧げた活気のある練習風景はそこにはなかった。クラブの部員も、暇を持て余した元ヤンキーのセレブ妻、試合になるといつも腹痛で不戦敗になる農家の夫婦、オタクの引きこもり高校生、さらにケガで引退した元日本ランカーのプロボクサーながら、妻の上司を不倫相手と勘違いして暴力事件を起こし、妻と娘に見捨てられた新入部員の萩原(瑛太)など、全く期待が持てない面々だった。
 しかし、江島と愛莉の幸せそうな姿を見た多満子は、クラブ再建と打倒江島・愛莉ペアを目標に、全日本卓球選手権の男女混合ダブルス(ミックス)部門への出場を決意。部員たちは戸惑いながらも、大会へ向け猛練習を開始する。多満子は萩原とペアを組むものの、全く反りが合わずケンカばかり。しかし、そんなふたりの関係にも、やがて変化が訪れていく――。

監督:石川淳一
脚本:古沢良太
出演:新垣結衣 瑛太
広末涼子 瀬戸康史 永野芽郁 佐野勇斗 森崎博之/蒼井 優
2017年10月21日全国公開 【公式サイト】(外部サイト)
(C)2017『ミックス。』製作委員会

提供元: コンフィデンス

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