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高橋一生インタビュー 『カルテット』の現場で役作りへの考え「再確認できた」

から揚げにレモンを勝手にかける行為は絶対に許せない、ボディーソープのことを「バディーソープ」と呼び、お金はないのに1箱1600円のティッシュを愛用する――。TBS系ドラマ『カルテット』で、そんな“面倒くさい男”家森諭高を愛らしく演じた高橋一生が、質の高いドラマを表彰する「第7回 コンフィデンスアワード・ドラマ賞」で助演男優賞に選ばれた。同作は『最高の離婚』など、数々のヒット作で知られる坂元裕二氏が脚本を担当し、松たか子ら実力派キャストが一堂に介した意欲作。撮影を振り返ってもらうと、彼にとって今作は、役作りに対する考えを“再確認”できた場でもあったという。

“から揚げにレモン”のシーンで、居住まいが決まった

――「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」では第1回(15年7月期)の『民王』に続いて、2度目の受賞となりますが、受賞された今のお気持ちをお聞かせください。
高橋一生 嬉しいです。こうして助演男優賞として評価していただけるというのは、とてもありがたいことだと思っています。次に進んでいくための糧になると、僕は思っています。

――今作は、松たか子さん演じる早乙女真紀をはじめ、高橋さんが演じた家森、満島ひかりさんの世吹すずめ、松田龍平さんが演じた別府司の4人が中心の群像劇。なかでも家森という役はかなり特異なキャラクターでした。脚本を読まれた段階では、どのような姿勢で役に挑まれようと思いましたか?
高橋 脚本の坂本裕二さんやチーフ演出(監督)の土井裕泰さんは、僕ら4人のお芝居をとても良く観てくださっていて、キャラクターというか、人物造形みたいなものを緻密に、一緒になって作り込んでくださったと感じていました。それは、監督や脚本家だけじゃなく、プロデューサーの佐野亜裕美さんだったり、技術スタッフの皆さん、美術スタッフの皆さんが一丸となって、家森という人間を、あの4人を、一緒に作ってくださったという感覚がとても強くあります。そういう現場でしたから、自分だけで“役作り”をして作品に望まなくていいんだ、ということを改めて再確認できた場所でもありました。
――事前に作り込むというよりは、撮影現場で役に入っていった?
高橋 普段から僕はどちらかというと役作りっていうのはあまりしないように心がけていています。多面的な部分や、開けた人間像を常に作っていたいからです。現場では、いろいな人の意見や、その時のタイミングもきっとあるでしょうし、相性もあります。そういったものが重なり合い、シーンとして合致していった時に、素晴らしい役が出来上がっていくのだと思います。

――今作で核となったのは4人の会話劇だと思います。その中でも印象に残っているシーンや、自分が演じている上で手応えを感じたシーンはありますか?

高橋 クランクインから、かなり早い段階で4人の別荘のシーンの撮影があったのですが、そこでの“から揚げにレモン”のシーンです。4人のコントラストや、それこそ“カルテット”による“言葉のセッション”というか。そういうものを早い段階で経験できたので、その後は、フォーカスを絞りやすかったです。家森はこれでいいんだとか、4人の関係性はこれでいいんだ、こうやっていこうという感じで。また、それを受けて、脚本の坂元さんも“セッション”してくれていたような気がします。本当にあのシーンです、あのシーンで居住まいみたいなものが決まった感じはあります。

TBS系ドラマ『カルテット』より (C)TBS

TBS系ドラマ『カルテット』より (C)TBS

――確かに家森は“面倒くさい男”であり、“ダメな父親”でした。でも、どこか憎めない。このキャラクターを高橋さんはどのように捉えていたのでしょうか。
高橋 (脚本の)坂元さんは『カルテット』という作品で、「人間は滑稽で愛おしい」ということを書いてくださっていたと思うんです。今の社会は、誰でも一定の基準に達していて、ある一定のラインに並んでいないとダメで、そこから外れた人は認めてもらえないという悲しい風潮が生まれてしまっているような気がしています。人間ってダメで良いし、ダメでも美しい瞬間はある。自分であることをずっと貫き通したほうがよっぽど楽しく生きられるし、自分らしく生きたって言えるんじゃないか、そういったメッセージが、『カルテット』には詰まっていたように思っています。

演奏の練習は昨年の夏ころから

――独特な会話の間はどのように生まれていったのでしょうか?
高橋 エチュードなんです。最初にリハーサルでお芝居してみると、「あ、こういうことだった」って気付くこともあったりして、とにかく不思議でした。4人とも演劇的だし、舞台セットを広く作ってくださっていたので、自由に動けたし、セリフはあるようで、なかったり。アドリブのようでアドリブじゃない。実際にアドリブはほとんどありませんでした。家森のダメな感じとか、可笑しさみたいなものは、それを許容してくれる3人がいて成り立ったと思います。生々しい感覚で受け止めてくれたからこそ、家森の面倒くささも際立ったと思うし、あの空間で3人とお芝居ができたことは、本当に幸せな経験だったと思いますし、多分ずっと忘れないと思います。

『カルテット』で、愛すべき“面倒な男”家森諭高を好演した高橋一生 (C)TBS

『カルテット』で、愛すべき“面倒な男”家森諭高を好演した高橋一生 (C)TBS

――それが家森というキャラクターでもあったわけですね。
高橋 家森に限らず、あの4人が4人とも、みんなダメダメで、みんな滑稽でしたよね。けれど、それぞれ突出したところが、とても人間らしくて、美しくて、格好良かったと思っています。格好良いということの定義だとか、ダメの定義は1つだけじゃないということも描かれていたように僕はどこかで思っていました。脚本が出来上がるたびに、「これでいいんだよ」、「胸張っていいんだよ」、「人間ってこんなんでいいんだよ」と、坂元さんからの手紙を受け取るような感覚もあって、それに対して、手紙の返事をお芝居でしていたような、とても充実していたし、幸せな現場だったと思っています。

――演奏シーンも多く、この点では大変苦労されたのではないでしょうか。
高橋 演奏については去年の夏くらいからずっと練習をしていました。最終的には、「死と乙女」を弾くのですが、自分も含めて、わりとみんな弾けるようになっていました。シーンとしては最初に「モルダウ」を弾いたんですけれど、とにかくこれが難しくて(笑)。「モルダウ」という高い壁を最初に作ってくれたことによって、その後がわりとやりやすくなっていました(笑)。先生も本当に親身に教えてくださいましたし、そういう意味では全然不安もなく、演奏とお芝居が両立できていたんじゃないかと思います。
  • 『カルテット』ポスター (C)TBS

    『カルテット』ポスター (C)TBS

――彼ら4人の恋愛については、どのように感じていましたか。
高橋 恋って本当にわからないものだって思います。家森が(満島さん演じる)すずめちゃんに抱いていた感情は、最初からあって、それは脚本の中にも散りばめられていたように思います。けれど、演じている僕もはっきりとはわからなくて。多分観ている方たちも、“かも?”って思っても確信は得られないままお話が進んでいったように思います。そこにリアリティを感じます。恋ってそんなにわかりやすいものじゃないし、人が人のことを好きになるとか、愛してるという感情はとても複雑で、わかりづらいものだと思います。坂元さんの脚本では、そこを、絶妙に余白を残しつつ描かれていました。1人の人をずっと思い続け、ストーカーのように追いかけていたのに、自分の会社の人と寝てしまうとか(笑)。やけに生々しいリアリティが、でも「そんなもんだよね」って言わせてしまう。別府くんがベランダでラーメンを食べるシーンもすごく印象的でした(笑)。
――最後に今後の抱負をお願いします。
高橋 ちょうど2年前ですか?『民王』でいただいたのと同じ「助演男優賞」をいただけて、とっても嬉しいです。これからも自分らしく、自分の受け取り方で周りの方たちと一緒にお芝居や作品作りに携わっていきたいと思っています。本当にこのように評価していただけるということは、感謝しかないです。ありがとうございます。今後も充実させていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

(文:編集部・竹村謙二郎/撮り下ろし写真:草刈雅之)

提供元: コンフィデンス

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