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松たか子インタビュー 『カルテット』は歌手としても「良い経験になった」

 5年ぶりに主演した連続ドラマ『カルテット』で、謎多きバイオリニスト・早乙女真紀を好演した松たか子が、質の高いドラマを表彰する「第7回 コンフィデンスアワード・ドラマ賞」で主演女優賞に輝いた。今作では演技に加え、満島ひかり、高橋一生、松田龍平と共にエンディング曲「おとなの掟」の歌唱も担当した。今年、歌手デビュー20周年を迎える松だが、『カルテット』への参加は歌手としても「良い経験になった」という。松にドラマ撮影の舞台裏を聞いた。

撮影が進むにつれ、何が起こっても楽しめるようになった

――『第7回コンフィデンスアワード・ドラマ賞』において主演女優賞を受賞されました。まずは率直な感想をお聞かせください。
松たか子 賞をいただけるなんて思ってもいなかったので嬉しいです。主演女優賞のほかに、作品賞や助演男優賞、新人賞に脚本賞まで同時に受賞することができ、そういったところまで総合的に評価していただけたのがとても嬉しいですね。やっぱり作品あっての私ですし、脚本があり、撮る人がいてこそ出て行けるという立場ですから、そういう方たちも含めて、面白がって観ていただき、評価してもらえたのは素直に嬉しく思っています。

――久しぶりの連続ドラマの主演でした。
 意識的に出演しなかったわけではないのですが、こういうのっていろいろタイミングなので…。ただ、監督の土井裕泰さんは以前、『運命の人』(TBS系 12年1月期放送)でご一緒しており、安心感もありましたし、同じドラマでスタッフにいた佐野亜裕美さんが、今作のプロデューサーなのですが、佐野さんとも、当時からまたいつか一緒にお仕事したいって思っていました。時間はかかってしまいましたが、“いつか一緒にできたらいいな”と思う人がいてくれたことは大きかったですね。それに、徐々に共演者が決まっていく過程で、期待感もとても高まっていました。

TBS系ドラマ『カルテット』より (C)TBS

TBS系ドラマ『カルテット』より (C)TBS

――松さんが演じた巻真紀の“闇”の部分も作品の原動力となっていました。
 巻真紀という人が違う名前、違う人だったというのは途中で知ったんです(笑)。ホント私、忘れもしないんですけど、朝、現場でメイクしていただいていた時に、メイクさんが「台本、読みましたか?」って声をかけてくれて。その時、私はまだ新しい台本を読めていなくて、すぐに楽屋に入って読んでみたら「ひやー!」って(笑)。それで、「私は誰なんですか?」って外にいたスタッフの方々に聞いて回ったんです。

――基本的な設定のようにも思うのですが知らされていなかったんですね!

 そうなんです! あの時は“これで私、最終回は出ないんじゃないか”って思ったくらいで。私は逮捕されちゃって、みんなは「あの人はこんな人だったよね」って話しているくらいでも、私、全然いいですって言ったくらい。1人の人が歩んだ道ではあるのですが、こんなふうに、1つのドラマで2回、3回と別の人生を演じることってなかったですし、そもそも台本に、巻真紀や早乙女真紀、山本彰子と、3つ名前が並ぶような役もやったことはなかったです。でも、台本を読んで「ひやー!」って言った頃には、もう何が起こっても楽しめる状態にもなっていましたね。

TBS系ドラマ『カルテット』より

TBS系ドラマ『カルテット』より

――そのほかにも驚いたエピソードはありますか?
 旦那さんとの夫婦の話を、2話かけて、回想と現在とをしっかり描くっていうのも結構、衝撃的でした。1つのドラマの中で、2話分を割いて、1組の夫婦の話をやるってすごいなって。カルテットドーナツホールのみんなも、ほぼ出てこない(笑)。こういうことにチャレンジできることは、すごく嬉しく思いました。宮藤官九郎さんと一緒に、あれだけ長く回想シーンを撮影していくというのも映画を撮っているみたいな感じでした。スタッフもそれぞれのシーンで使用する衣装など、シューシュー言いながら用意していたのですが、でも、あのころからスタッフのみんなも何が起きても楽しめるようになっていました。名前が変わったときもびっくりはしましたが、もう、何も怖いものはないというか、受け入れるだけだな、って。そういう意味では、何でも面白がれる人たちが集まった幸せな現場だったと思いますね。

――この役を演じてご自身の夫婦観だとか結婚観に影響はありましたか?
 それは20年後ぐらいになってみないと自分ではまだわからないですが(笑)、でも、どこかでタイミングが狂ってしまった時の哀しさだったり、可笑しさというのは、その夫婦が一生添い遂げようと、添い遂げまいと、なにかしら日々生活の中で起こっていて、それをどのくらい重く受け止めるかどうかってことだと思うんです。スタッフの人たちにも、思い当たるところがあるような顔をして撮っている人がいて、それを見ていても、“あぁ、そういうことだよな”と。やっぱり男の人と女の人のどうしようもない違いというものはあるんだろうなとは思いますけどね。

椎名林檎さんの“仕事”にはとても驚いた

  • ドラマ『カルテット』主題歌「おとなの掟」配信用ジャケット

    ドラマ『カルテット』主題歌「おとなの掟」配信用ジャケット

――主題歌も話題になりました。
 かっこいい曲だと思いました。椎名林檎さんは細かいところまでストーリーを知らない状態で書いたそうで、それでこの曲ができるの?って、とても驚きました。椎名さんとお仕事ができたことは本当に楽しかったです。また、レコーディングは、残念ながら男性陣とは別々の日だったので、お互い冷やかし合いながらレコーディングできたわけではないのですが、それでも、みんなはそれぞれ楽しんで歌っていたように思います。私自身も自分のレコーディングとも違う、なんとも言えない楽しさというか、気楽に臨んだわけではないけど、“やってみよう!”というくらいの気持ちで臨めたので、私にとっても良い経験になった曲ですね。

―― 一番印象に残っているシーンや台詞は?
 「志のある三流は四流だからね」っていう言葉がとてもキツいなと思いました。この言葉に、ピンとこない人もいるだろうし、何も言えないくらいに強く実感する人もいるでしょうが、私は結構すごいことを脚本の坂元(裕二)さんは言わせるなって思いました。また、撮影中では第1話の中で、イッセー尾形さんが演じた偽余命9ヶ月ピアニストのベンジャミン瀧田さんが私たちを「カルテット」って言ってくれたのが、とても印象深いです。シーンとして初めて「カルテット」と呼んでもらった瞬間で、4人もまだ探り探りやっていくなかで、「カルテット」って言ってくれた時に、「あぁ、カルテットをやっていくんだ」って気持ちになれたんです。それって現場でやってみないとわからないことで、すごく嬉しかったのを覚えています。
――高橋一生さんは現場で台詞を合わせたことを振り返り、「エチュードみたいな感覚だった」とも言っていました。
 そうですね。実際にお芝居をしてみたときに、「あ、そういうふうにやるんだね」ってわかっていくというか。ただ、その感覚を貫いていく人もいれば、その時々で変えていく人もいて、その違いが私たち“カルテット”のあの感じになったんだと思います。みんなが同じタイプのようで、実は違うというか。“とりあえずやってみよう”というふうになれたのが良かったんだろうと思いますし、演じていても楽しかったですね。また、それは満島ひかりさんが演じたすずめちゃんと、吉岡里帆さんが演じた来杉有朱ちゃんとの長いシーンでもそうでしたね。女3人のシーンで正直、気が重いなと思っていたのですが、やっていてとても面白かったです。失敗をおそれずやってみようというのはすごく大事なことですよね。テレビの場合は1ヶ月とか稽古できるわけではないので、やってみようで失敗しちゃう怖さもありますが、それでも“やってみよう”っていうふうになれたのは、一緒に演じた俳優さんだったり、監督たちスタッフがしっかり見ていてくれているという安心と信頼があったからだと思います。

――最後に視聴者へひと事メッセージをお願いします。
 今回、『カルテット』で、名前をたくさんもつ女性の役を演じて、すごく楽しむことができました。また、これからも面白い役、変な役に出会えるように、心身とともに健康でいたいと思っています。余談ですけど、音楽も歌手デビュー20周年を迎え、細々と、でもやってきてみるもんだなーっと思いながら、今、アルバムを制作中ですので、そちらも聴いてみていただけると嬉しいです(笑)。また、お会いできる日を楽しみにしています。ありがとうございました。

(文:編集部・竹村謙二郎/撮り下ろし写真:草刈雅之)

■衣装協力
STUDIO NICHOLSON/CHI-RHO inc.(03-3710-9696)
talkative/talkative Atelier Shop(03-6416-0559)

提供元: コンフィデンス

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