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2017年映画シーンの行方は?露わになる優勝劣敗の構図 様々な意味合いの“ピーク”を迎える漫画実写化

 『君の名は。』『シン・ゴジラ』『この世界の片隅に』などのヒットが話題になった一方、期待作『海賊とよばれた男』や強力シリーズ『映画 妖怪ウォッチ』など後半の邦画大作がやや苦戦を強いられた2016年の映画シーン。果たして2017年はどうなるのか。『銀魂』『ジョジョの奇妙な冒険』『鋼の錬金術師』などのビッグタイトルのほか、恋愛ものでも漫画実写化が続くが、2017年はそのひとつのピークになるとの見方もある。映画ジャーナリストの大高宏雄氏が「優勝劣敗の構図が露わになる」という波乱含みの2017年映画シーンを占う。

2017年の行方を占う正月興行で見えた、定番作品の強さと脆弱さ

 映画の移り変わりの激しさを、まざまざと示した2016年であったと思う。その意味は、昨年末の総括特集でいくつかお伝えした。では、今年2017年の映画界(興行)がどうなるのかといえば、はっきり言って、皆目見当もつかない。つくわけはない。それが映画という一寸先の動きがまるで読めない摩訶不思議な生き物たるゆえんだからである。
 ただひとつ手がかりになるのが、この正月興行だ。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『バイオハザード:ザ・ファイナル』の洋画3作品が、何と興収上位を争っている。逆に、期待作の『海賊とよばれた男』が少し物足りなく、『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』がこの強力シリーズの力を落としている。これで、洋画復活だと言ってしまうと、映画の現状を見誤る。そこにあるのは、あくまでヒントなのだ。そこから見えてくるのは、定番作品の強さと脆弱さである。

 邦画からいこう。ここ数年、というより随分長く邦画興行を領導してきたコミック原作の大型実写娯楽作品は、今年がひとつのピークを迎えることになるだろう。ピークの意味は、最高潮の興行ということではない。成果は未知数なりに、話題作揃いであることが、そのひとつのピークを作り上げるという意味だ。
 その中核の会社が、洋画メジャー系のワーナー映画である。周知のように、この会社は邦画の製作、配給に本越を入れ始めて10年以上が経つ。とくに、コミック原作の実写映画化作品の製作、配給に定評がある。今年、それらは『無限の住人』『銀魂』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(東宝と共同配給)『鋼の錬金術師』として連打される。コミックファンからしたら、何とも壮観であろう。来年には『BLEACH』もある。

すでに飽きが来ている?かつて以上にシビアな状況にある漫画実写化

 ただ、壮観の意味は様々である。否定的な面も含むからだ。コミック原作ファンならではの期待と、ファンであるがゆえの実写作品に対する複雑な思い。このふたつの局面が混じり合うなかで、ファン以外の一般層への波及力はどうなるか。一般層を存分に意識したと思える木村拓哉、小栗旬、山崎賢人、山田涼介(各々前述の作品順に)といった主演俳優たちの演技の質と、それにからんでくる中身の充実感が、興行の成果を握るのは間違いない。

 要は、中身なのだと言ってしまうことは簡単で安易だが、結局はそこに行き着くのだ。その評価の眼が、かつて以上にシビアな状況になっている昨今、生半可な中身で観客を甘く見れば、総スカンを食うこと必定であろう。
 コミック原作の実写映画化のもうひとつの潮流である恋愛ものも、ひとつのピークとなるかもしれない。一つひとつのタイトルは挙げないが、本数がとにかく多いのだ。ただ、多いがゆえに、懸念の度合いは膨らむ。映画界は、あるジャンル、作品がブームになると、それに準じた作品の多様な流れが登場する歴史をもつ。

 ただ、その定番の流れは、必ずや飽きが来る。ピークの前に、すでに来ているのだ。この混戦状態から、どの会社のどんな作品が浮かび上がるか。まさに、網の目を通すような過酷な興行上のふるいが、各作品に掛けられることであろう。

年間興収新記録を打ち立てた東宝、歴代2位の興収を築いた松竹

 さて各社別では、昨年、年間興収新記録となる800億円を超えただろう東宝が、今年も(1)定番アニメ (2)テレビ局主体の作品 (3)自社の企画・製作作品の3つの“路線”を掲げて盤石だ。とくに注目したいのは、自社企画・作品で『3月のライオン』(2部作、アスミック・エースと共同配給)『君の膵臓をたべたい』『関ヶ原』(アスミック・エースと共同配給)『ジョジョの奇妙な冒険』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』『亜人』などがならぶ。それ以外では、フジテレビの『帝一の國』、TBSの『忍びの国』、日本テレビ=スタジオポノックの『メアリと魔女の花』なども、大きな話題を提供することと思う。
 昨年、190億円前後まで数字を伸ばし、歴代2位の興収を築いた松竹は、意外や安定路線だ。東宝が例年どおりに年間30本前後の公開本数を立てたのに対し、その半分ほどの14本前後が並ぶ。東宝同様に、自社の企画・製作作品が多く、なかではコミック原作の実写映画化である『東京喰種 トーキョーグール』と実話感動作の『8年越しの花嫁』が目玉と言えそうだ。さらに、少女コミックの実写版『PとJK』や、人気コミックアプリが原作の『ReLIFE リライフ』などもポテンシャルが高いようにみえる。
 年末のラインナップ発表がなかった東映は、公開本数を相当絞りこむようだ。同社は、定期的に作品を供給するブロックブッキング体制を含め、製作のありようから配給の形まで、大きな変革の時期に入った。同社得意の人気アニメの編成は、どうしても数が限られる。『仮面ライダー』も図抜けた興行は難しくなっている。今年は『相棒』など人気シリーズの新作が予定されているが、東映の自社企画・製作の実写作品の方向性こそ、同社の映画事業の行く末を決定づけるであろう。

例年に増して話題作、大作など多彩なラインナップが揃った洋画シーン

 洋画は、ざっくりと作品を挙げてみよう。ディズニーがCGアニメ『モアナと伝説の海』、実写版『美女と野獣』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』に『スター・ウォーズ エピソード8』。ワーナーが『キングコング:髑髏島の巨神』、戦争大作『ダンケルク』、DCコミックス原作の『ワンダーウーマン』と『ジャスティス・リーグ』。
 ソニーが『スパイダーマン ホームカミング』と『ブレードランナー 2049』。東宝東和が『SING シング』に『ワイルド・スピード ICE BREAK』『ゴースト・イン・ザ・シェル』。KADOKAWAが『沈黙 サイレンス』。ギャガが『ラ・ラ・ランド』といったところが並んでくる。もちろん、これら以外にも話題作、大作は多く、例年に増して洋画は多彩な作品群が揃ったと言っていいかもしれない。
 おそらく今年は、冒頭で述べたように、正月興行を多少なりとも覆っていた定番作品(シリーズものや、人気ジャンルなど)の強さと脆弱さが、邦画、洋画全般のなかで、相当露わになってくるのではないか。まさに、優勝劣敗の構図である。何が勝ち残り、何が消えていくのか。

 ただ、2014年の『アナと雪の女王』、昨年の『君の名は。』と『シン・ゴジラ』が切り開いた映画の社会現象化の道を進む作品がなかったとしても、それほどがっかりすることもあるまい。華々しい社会現象化としての“ハレ”的な要素と真逆に、映画(興行)は日常としての“ケ”の部分が、実はとても大切なのだ。これは、日常的に映画を見る環境の構築のことであり、この鑑賞行為の浸透、普及こそが、映画(興行)の目指すべき道筋だと思う。ただ実際には、この日常的な映画鑑賞の道は社会現象化などより、はるかに険しいのである。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(C)2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved./『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社/『銀魂』(C)空知英秋/集英社(C)2017「銀魂」製作委員会/『無限の住人』(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会/『鋼の錬金術師』(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会/『PとJK』(C) 2017 「PとJK」製作委員会/『一週間フレンズ。』(C)2017 葉月抹茶/スクウェアエニックス・映画「一週間フレンズ。」製作委員会/『3月のライオン』(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会/『帝一の國』(C)2017 フジテレビジョン 集英社 東宝(C)古屋兎丸/集英社/『東京喰種 トーキョーグール』(C)2017「東京喰種」製作委員会/『きょうのキラ君』(C)2017「きょうのキラ君」製作委員会/『美女と野獣』(C)2016 Disney. All Rights Reserved./『ワンダーウーマン』(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC/『ゴースト・イン・ザ・シェル』(C)MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved./『沈黙 サイレンス』(C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved./『SING シング』(C)Universal Studios./『キングコング:髑髏島の巨神』(C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND PATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.ALL RIGHTS RESERVED

提供元: コンフィデンス

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