引き算の美学
レンジローバーファミリーに第4のモデル「ヴェラール」が登場。未来感あふれるデザインと先進技術とを融合させた、ラグジュアリーSUVの個性とは? ディーゼル車の最上級グレードである「R-DYNAMIC HSE(D180)」に試乗した。
シンプルで美しいスタイリング
レンジローバーについては常々「せっかく“砂漠のロールス・ロイス”と称されるなど、最高のプレミアムSUVの地位を得ているのに、商売っ気丸出しでやや小さい『スポーツ』やうんと小さい『イヴォーク』を出すなんて。レンジローバーは孤高の存在であるべきで、その名を安売りするべきではない!」と(株主でもないのに)言いたくて手ぐすね引いているのだが、出てくるどれもが素晴らしいので言うタイミングがない。
スポーツは初代こそサイズも性能も存在感もやや中途半端な印象があったが、モデルチェンジしてレンジローバーの名に恥じぬ高級感とレンジローバー以上のスポーティネスを得てその存在意義は明確になった。イヴォークは、さすがにエンジン横置きのレンジローバーはないだろうと説教する気満々だったのだが、いざ実物を前にすると圧倒的な美しさを前に「こういうのもいいよね」と言うほかなかった。
しかしスポーツとイヴォークの間にさらにさらにもうひとモデル増やそうとしているとわかったときには、さすがに「いやいやいやランドローバーさんよ、調子に乗りなさんなって。きめ細かくカテゴリーを埋め尽くすなんて、ロイヤルワラントのブランドがすることではありませんよ」と書いてやるんだと心に決めた。
そうしたら出てきたのがこのヴェラール。今回もいとも簡単にランドローバーのデザイントップ、ジェリー・マクガバンの軍門に下ったのであった。だってこんなに美しいSUVってある? 前端に「RANGE ROVER」と書かれたクラムシェルボンネット、切れ長のヘッドランプ、いかにもデパーチャーアングルを意識した、跳ね上がったリアオーバーハングなど、レンジローバーを名乗る以上守るべきデザイン上のお約束を守ったうえで、凹凸が極めて少ない、シンプルで美しいスタイリングで登場した。
このクルマのデザインテーマはリダクショニズムだとか。なるほど……何それ? いわゆるひとつの“引き算の美学”というやつだとしたら、確かにヴェラールのエクステリアデザインは要素が少ない。デザインがゴチャゴチャ散らかっていない。大きなタイヤを精いっぱい張り出すいっぽう、サイドウィンドウに傾斜をつけてキャビンを小さく見せている。ドアノブも普段は隠れていて、必要な時に出てくるスカしたタイプだ。都市部にあると、イメージ映像を撮影中のコンセプトカーのように見え、自然の中で見ると、ひそかに降り立った宇宙船のよう。...