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四国本土と島の最東端の秘密〜徳島県の湿原と海軍遺跡〜


四国本土最東端である阿南市の蒲生田岬と島嶼(しょ)最東端の同市の伊島には、共通する三つのモノがあります。灯台と湿原、そして海軍の戦争遺跡です。灯台からは海原が望め、海の近くに広がる湿原に繋がる歩道の側には、海軍のレーダー跡や発電施設跡、横穴壕等が人知れず眠っています。伊島では6月にイシマササユリ、夏から秋には釣鐘型のツリガネニンジンが咲く群落もあり、紀伊水道を背景に自然と戦跡を巡ることができます。

山頂の機銃陣地と山腹の花の群落

写真:春野 公比呂

本州や徳島市方面から各最東端へ向かう場合、徳島市から南下することになるので、伊島から訪れることになります。伊島の定期船乗り場は答島(こたじま)港にありますが、切符は船内で購入します。
蒲生田(かもだ)岬の沖合6kmの紀伊水道に浮かぶ周囲9.5kmで人口200人足らずの伊島は、上空から見るとすぐ西に浮かぶ棚子島と合わせて「い」の形に見えることから、「いしま」と名付けられたのだと言われています。
島に上陸すると集落南東背後に横たわる日和山(60m)を目指します。この山頂には島民が「砲台跡」と呼ぶ、戦時中の海軍紀伊防備隊瀬戸崎防備衛所の機銃陣地跡があるのです。防備衛所は陸軍に於ける「要塞」と機能が似ていますが、ここのような中規模以下の衛所は砲台ではなく、機銃が防備の要でした。
まず船着場から堤防沿いを南東に歩いて行き、伊島郵便局の二軒手前のT字路を左折します。右カーブ先の三差路も左折し、すぐ先の四差路は松林寺北沿いを東へ上がる石段を進みます。
尾根に乗ると多賀神社を経て山頂に達します。馬蹄型の石積みが機銃陣地跡で、ここに13ミリ機銃を据えていました。

写真:春野 公比呂

日和山山頂付近からは島周辺の磯の他、本土の鉄塔が建つ岬も遠望できます。

写真:春野 公比呂

日和山からは一旦四差路まで引き返し、北東に進みます。伊島・小中学校東からは道路を山手に向けて上がって行きますが、工事関係車両以外の車は島にはありません。
数分ほどで右手に「ササユリ群生地・カベヘラ」の道標と遊歩道が現れます。このササユリとは島の固有種であるイシマササユリのことで、5月下旬から6月上旬、淡いピンクの花を咲かせます。8〜11月は薄紫色をしたキキョウ科ツリガネニンジンの群落が現れます。花弁はその名の通り、釣鐘にそっくり。

防備衛所基地の核心部

写真:春野 公比呂

カベヘラとは海岸沿いの崖が平らになっている箇所。下部には海蝕洞があり、そこに荒波が当たると高さ30mもの飛沫が上がると言います。カベヘラの遊歩道はU字を描いて遊歩道起点のやや東方に出ます。

写真:春野 公比呂

道路の右沿いに大溜谷の溜池が現れると、もうそこは防備衛所の核心部。溜池を過ぎると左手に端が削られたコンクリート壁が露わになっていますが、これは兵舎を守る防護壁だと思われます。その奥のコンクリートや赤煉瓦の残骸がある場所は兵舎と烹炊所(炊事場)跡。
その南東の道路の左カーブ起点辺りから右手に分け入ると、東西に二基の横穴壕が現れますが、西側の壕は全長が50mもあります。奥まで行くには懐中電灯を。

写真:春野 公比呂

横穴壕の南には海軍の境界標石や外壁だけになった発電機室関係の建物二棟が佇んでおり、戦時を物語っています。

海岸沿いに広大な湿原

写真:春野 公比呂

道路に戻り、先を進むと海軍の水槽を経て、地蔵が祭られている地蔵峠に立ちます。ここから南に上がる道が島の最高峰・狼煙山(121m)の登山道。山頂には防備隊が聴音室(艦艇の音を探知する施設)を建設するまで、狼煙台がありました。その施設も昭和31年に伊島灯台が建設されると撤去され、今では山頂北西に兵舎跡の赤煉瓦とL字型塹壕を伴う横穴壕跡を残すのみです。それでも何とか紀伊水道は望めます。

写真:春野 公比呂

地蔵峠へ戻ると先へ進みますが、すぐ三差路になります。往路は右側の観音堂へのコースを選びます。道が最も東に振った地点の下方の岬・黒崎が四国全体の最東端になりますが、道はありません。
観音堂へ下って行く道の途中にもイシマササユリの群生地がありますが、海岸沿いに広がる野尾辺湿原も望見できるようになります。

写真:春野 公比呂

野尾辺湿原は約60ヘクタールの広さで、タガメやゲンゴロウ等の昆虫や南方系植物の保全のため、環境省の「日本の重要湿地500選」に選定されています。
復路は湿原内のやや南寄りを対岸へ渡り、八丁坂を登って地蔵峠へと戻り、伊島小中学校から南西に下る道路を辿れば、往路の堤防沿いへ出ます。

移設された機銃銃座と池を擁す広大な湿原

写真:春野 公比呂

昭和期は答島港から蒲生田岬への船便があったのですが、現在は車で訪れるしかありません。が、その前に答島港南方の陸繋島・小勝島にあった海軍の遺構が移設されている場所に寄ってみましょう。そこは路線バスを利用できます。
市内橘町にある阿南クリーンセンター東側のふるさと館南東隅に、機銃陣地の銃座底盤(直径1.6m)と赤煉瓦造りの銃弾置き場(高さ110cm、幅85cm、奥行き70cm)が一基、移設されています。小勝島には昭和20年5月、海軍第6特攻戦隊第22突撃隊が置かれ、特殊潜航艇・蛟竜が配備されており、機銃陣地が三ヶ所、設けられていたのです。赤煉瓦造りの銃弾置き場は珍しく、重厚さを感じます。
平成に入り、小勝島には四国電力の火力発電所が建ち、関係者以外の上陸は禁止されています。

写真:春野 公比呂

蒲生田岬の車道終点南側に蒲生田大池があり、その一部が湿原化しており、「蒲生田湿原」と呼ばれています。ヒメガマやアンペライを始め、45種の植物が確認されており、天然記念物にも指定されています。木道も整備されており、湿原部と池部の景観が絶妙。

写真:春野 公比呂

大池と岬の突端に建つ蒲生田岬灯台は回遊歩道で結ばれています。往路は駐車場から東進します。灯台は大正13年(1924)に完成し、沖合19kmまで照らしています。

姿を現す海軍レーダー基地

写真:春野 公比呂

岬は海崖となっており、遊歩道は高度感を感じます。進路前方に見える崖下の岩場は海水の溜まる泉のようになっています。
灯台前からは紀伊水道の大海原や伊島等の島群を見渡すパノラマが広がっています。

写真:春野 公比呂

灯台の南西、尾根の最高所脇の削平地には海軍の電波探信儀(「レーダー」の海軍用語)の台座基礎が残っています。但し、六角形のコンクリート基礎にはボルト穴が開いていないことから、未完成で終戦を迎えたことが分かります。遊歩道沿いに看板を建て、歴史を後世に伝えて貰いたいものです。

写真:春野 公比呂

その最高所手前には何百キロもあるようなコンクリート片が横たわっているのですが、ここから斜面を適当に下りて行くと、至る所に横穴壕跡や塹壕(写真)があります。その兵士らの思いを胸に、大池へと下って行きます。

美しい自然と語り継ぎたい歴史

観光客が多い蒲生田岬とハイカーや太公望に人気の伊島。それぞれ湿原や海岸は美しく、紀伊水道の展望も優れ、風光明媚な地ですが、各戦争遺跡については看板もなく、訪れる観光客もおらず、忘れ去られた存在となっています。尤もその廃墟感やラピュタ感に魅力を感じる方も少なくないことでしょう。
<伊島の基本情報>
所在地:徳島県阿南市伊島町
問合せ先: 0884-22-3290(阿南市産業部商工観光労政課)
アクセス:JR牟岐線阿波橘駅から南へ徒歩8分ほどで答島港乗船場。定期船にて30分で伊島。マイカーの場合は答島港の谷一製材所前等の岸壁に駐車。
コースタイム:戦跡探訪時間を除くと島の回遊は2時間半から3時間ほど。
<移設銃座の基本情報>
所在地:徳島県阿南市橘町土井崎
問合せ先: 0884-34-2161(ふるさと館)
見学時間: ふるさと館の開館時間(9~17時)に準じる。月曜休館。但し祝日時は開館し、その翌日休館。また、南のグランドでナイターを行っている際はそれが終了するまで見学可。
アクセス:JR阿南駅や阿波橘駅から小吹川原(おぶがわら)方面行の阿南バスに乗車し、南鵠(みなみくぐい)バス停で降車。徒歩7分ほど。マイカーの場合、無料駐車場あり。
<蒲生田岬の基本情報>
所在地: 徳島県阿南市椿町蒲生田
問合せ先: 0884-22-3290(阿南市産業部商工観光労政課)
アクセス:JR阿波橘駅から車で40分。無料駐車場30台分。
※三ヶ所の基本情報は2017年10月現在のものです。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

■関連MEMO
伊島マップ
http://shikokunomigishita.jp/docs/2011032400049/files/ishima.pdf
阿南市公式ホームページ(伊島)
http://www.city.anan.tokushima.jp/docs/2010112900042/
阿南市広報紙特集
http://www.city.anan.tokushima.jp/docs/2015082600046/file_contents/ANAN686_2-7.pdf
阿南市公式ホームページ(蒲生田岬)
http://www.city.anan.tokushima.jp/docs/2010112900035/
徳島バス阿南(阿南バス)
http://anan.tokubus.co.jp/RosenBus/rosenbusindex.php

【トラベルjpナビゲーター】
春野 公比呂

提供元:トラベルjp 旅行ガイド

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