最善のスーパースポーツ
マクラーレンロードカーの中核をなすスーパーシリーズ、その最新作である「720S」にイタリアで試乗。新しいシャシーと4リッターまで拡大されたV8ターボエンジンがもたらす走りは、ピュアなスポーツドライビングの歓びに満ちていた。
真の量産車メーカーへ脱皮
2011年に「MP4-12C」をデビューさせてから、その後の5年間で11ものニューモデルを発表したマクラーレン・オートモーティブ。年間生産台数がようやく3000台を超えたばかりのスポーツカーメーカーとしては驚くほど多作だが、この数字は彼らが驚異的なスピードで進化してきたことの証明といえる。
誤解がないように付け加えれば、MP4-12Cはひとつのメーカーの処女作(それ以前に「マクラーレンF1」や「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」をリリースしているものの、彼らは2010年に組織を一新して主要メンバーも入れ替わっており、この年が新生マクラーレンの実質的な初年度だったと位置づけられる)としては驚くほど完成度が高かった。とりわけハンドリングと乗り心地のバランス、優れた動力性能やトラクション性能、カーボンモノコックによる高いシャシー剛性、良好な視界や居住性などは、既存のスーパースポーツカーの常識を覆すほど高い水準にあった。
では、マクラーレンがこれまで何を進化させてきたかといえば、そのほとんどは「F1のスペシャリストが真の量産車メーカーに脱皮するためのステップ」だったと説明できる。パワーはあってもレスポンスとドライバビリティーに改善の余地があったエンジンの熟成を図る。量産車にあって当たり前のグローブボックスを追加するなど収納スペースを拡充する。サイドシルを下げて乗降性を改善する……。そういった、いわば使い勝手の面での改良を図ると同時に、スポーツカーとしての基本性能に磨きをかけ、インフォテインメントの進化やモデルバリエーションの充実を図ってきたのが、これまでのマクラーレンの歩みだったといっても過言ではない。
もっとも、こういった広範な改良・進化をわずか5年という短期間で終えられたのも、2週間に1度のペースでマシンを改良し続けるスピード感、そして航空宇宙産業と並ぶ高度な技術力を有するF1チームとしてのバックグラウンドがあったからこそ、といえるだろう。...