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攻撃だけでなく球際でも魅了せよ。風間体制後の川崎、鬼木監督の要求。

浦和戦では中村がベンチに下がった後に長谷川竜也がゴールを挙げるなど、選手層の厚さも増した。悲願の初タイトルへ、機は熟している。

川崎フロンターレが好調だ。
第17節でヴィッセル神戸に5-0で完勝すると、ACLの前哨戦とも目された浦和レッズ戦も4-1で圧勝。続くサガン鳥栖戦では、中2日ながら0-2から後半の3得点で逆転勝ち。真夏のタフな3連戦を全勝で飾り、3位に浮上した。
思えば、開幕前の前評判は決して高くはなかった。
クラブを約5シーズン率いてきた風間八宏監督が退任したこと、そしてJリーグ3年連続得点王に輝いた大久保嘉人がFC東京に移籍したこと。それもあって攻撃力のダウンが懸念されていた。しかし今年も「攻撃力の川崎」の看板に偽りはない。
第18節を終えて得点数「33」はリーグ3位。主将を務める小林悠が9得点、ガンバ大阪から移籍してきた阿部浩之が8得点で、得点ランキング2位、3位につける。指揮官が鬼木達になっても、持ち前の破壊力は健在だ。むしろ進化していると言って良いかもしれない。

川崎対策のマンマークが通用しなくなりつつある。

例えば神戸戦や浦和戦は、昨年までの川崎とはひと味もふた味も違う強さを証明した。神戸のネルシーニョ監督、浦和のペトロヴィッチ監督は、中盤におけるキーマンである中村憲剛や大島僚太をマンマーク気味で抑えることでパスワークのリズムを狂わす守り方を採用して臨んできた。
かつての川崎には有効だった対策だが、現在は通用しない。
なぜか。
相手がマンマーク気味で抑えに来たときの打開策を、チーム全体で見出しているからだ。ボールを経由する選手が密着マークされたら、それを逆手にとって動き、そのスペースを周囲がうまく使う。人に引っ張られてエリアを空けるマンマークの弱点を突く作業を、ピッチ上の選手たちがごくスムーズにやってのけるのだ。

タイトにマークされても、ポジションを上手く取れば。

神戸戦後、登里享平がこう振り返る。
「相手はタイトに来るだろうなと思っていました。(ネルシーニョ監督は)レイソルのときもそうだったので。ただウチはリョウタ(大島僚太)がそうだけど、今は付かなくてはいけない選手が増えている。さらに個々でみんながうまいポジションを取ることで、相手の嫌なところ、つきにくいところで相手のマンマークをはがしていた」(登里)
川崎の中盤は、トップ下・中村憲剛とボランチ・大島僚太の縦関係がポジションチェンジを頻繁に行う。特に中村は最終ライン近くや、タッチライン際まで位置取りをして攻撃の起点になったりと、とにかく自由自在だ。
例えば浦和戦で、ボランチ・阿部勇樹にマンマーク気味で付かれていた中村は、マークを引きつけて阿部を動かすか駆け引きをしていた。阿部を動かすことは、彼の持ち場であるバイタルエリアを手放すことにもつながるからだ。

状況によっては憲剛がサイドバックになることも。

ワントップの阿部浩之、右サイドハーフの小林、そして左サイドハーフの登里がその意図を読み取り、ボランチの大島僚太やエドゥアルド・ネットも空いた中央を果敢に攻略。浦和戦後の中村は、してやったりといった表情で流動性を振り返っている。
「(自分も)右サイドバックや左サイドバックになったりするし、それを見て周りが動いてくれる。阿部ちゃん(阿部勇樹)も自分についていきたいけど、いけない。でも、いかないとボールを触られる。今は後ろが安定して回しているからね。後ろの4人と中盤のボランチのところでしっかりと持てているから両サイドが高く取れる。両サイドが高く上がれば、前の4人のスペースは確保出来る。そこを抑えられたら、また自分が手助けすればいい。前だけではなく、全体の柔軟性がでてきたと思う」
相手からすれば、中盤のキーマンを抑えようとすると、他の選手に中央を使われる。かといって真ん中に人数をかけて守ろうとすると、今度はサイドバックが前線に出てくるのだ。
鳥栖戦の同点弾は、左サイドバック・車屋紳太郎の深い折り返しに右サイドバックのエウシーニョが流し込んだ形だった。
「シンタロウが(ボールを)持って行って、ユウ(小林)かアベちゃん(阿部)が詰めていると思っていた……なんでエウソン?」と中村は笑っていたが、ポジションに捉われない崩しを展開しているとも言える。

切り替えの早さ、球際の強さを要求し続けるように。

とはいえ、これだけポジションを崩して攻撃に出て行くと、当然ながらリスクもある。流動的に攻めている分、ボールの失い方が悪ければ、ピンチにもなりかねない。
しかし今季の川崎は守備も安定している。第18節を終えて1試合平均1失点を割る17失点で、リーグ4番目の少なさだ。
そこは今季から指揮を執る鬼木監督の手腕と言えるだろう。
鬼木監督はシーズン当初から、チーム全体に球際の強さや切り替えの早さを要求し続け、これが選手に浸透。ボールを保持してゲームを進められる強みを維持しながらも、ボールを失った局面での前線の守備意識と強度を向上させた。
その守備を最前線で支えている存在が、ワントップの阿部とトップ下の中村である。阿部はガンバ時代から献身的な守備に定評があったが、彼が流れを読みながら前線からボールを奪いに行くことでメリハリのついたディフェンスができており、阿部に連動する中村も、精力的なプレッシングを欠かさない。

一気に守備で圧力をかけて主導権を奪い返せる。

「解説の戸田さん(戸田和幸氏)が褒めてくれていた。俺の守備を褒めてくれる人はなかなかいないから、すごく嬉しかったですね(笑)。自分のところでボールを取れないのはきついけど、それで後ろが助かっているのなら良い。体力を持たせる気がないし、よく(プレスに)いくなと思う」
中村はこう笑って話していたが、運動量が落ちた終盤には家長昭博が控えている。中村自身も思う存分、守備でも走れるというわけだ。
実際、前線の守備から流れを引き寄せる試合も増えている。
前節・鳥栖戦では谷口彰悟のゴールで1-2と追撃すると、再開後のキックオフで川崎は猛プレスを開始。鳥栖がたまらず青木剛までボールを下げたところに、阿部が詰めていく。次の瞬間には、ボールを受けたキム・ミンヒョクに対して中村が激しくチェック。うまくロングボールを蹴らせてセカンドボールを回収し、再びボールを握る展開に持ち込んだ。同点弾が生まれたのはその直後の攻撃だった。
相手の動揺を見逃さず、行けると判断したら一気に守備で圧力をかけて主導権を奪い返す。そういう戦い方も身につけつつある。

ホーム等々力も攻撃以外で歓声が沸くように。

鬼木体制となり、チームは着実に変貌を遂げつつある。しかしその手応えを指揮官に聞くと、「今、段階としては(守備の)意識も良くなってきているし、それはすごくあると思います。でもこれに関しては、ここまでで良いというのはないし、まだまだ上がある」と満足していない様子だった。
視線の先に見据えていたのは、さらなる高みであるからだ。
「自分たちはどこを目指すのかといったら、J(リーグ)だけなのか。今、アジアで戦っている中で、アジアでタイトルを取ろうとなったら、もっとこだわらなくてはいけない。その後の先があるのならば、それも意識しないといけないですよね。ここからもう1つ、もう2つ、まだまだ先がありますから」(鬼木監督)
これまで川崎の試合はその圧倒的な攻撃力ゆえに劇的な試合が多く、ときに「等々力劇場」と言われていた。ただ最近は、試合中のスタジアムの反応も良い意味で変化しつつあるという。2009年から在籍している登里が、こんな風に語ってくれた。
「攻守の切り替えだったり、球際のところで魅了する。等々力でやっていても、攻撃だけではなく、攻守の切り替えで奪った時でも観客の盛り上がるところが変わってきていますね。そういう魅せ方が出て来ていると思います。戦う集団になってきているし、それはオニさんがずっと言い続けてきていることでもある」(登里)

2点ビハインドの鳥栖戦で鬼木監督がかけた言葉。

――強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ。
ドイツの「皇帝」ことフランツ・ベッケンバウアーの名言である。
勝ちにこだわるということ。例えば0-2で迎えた前節鳥栖戦のハーフタイム、鬼木監督からのこんな言葉で心に火がついたと複数の選手が証言する。
「こういう試合を勝つことが優勝争いをする上で必要だし、お前らの力ならば絶対にこの試合に勝てるぞ、と言われました。選手としても、信頼されていると思ったし、やってやろうと奮い立たせられた」(小林)
「オニさん(鬼木監督)が『絶対にひっくり返せる』と言っていた。信じて頑張ろうと思ったし、気持ち的にはそれほど悲観せずにやれました」(大島)
その言葉を信じて戦ったチームは2点差を追いつき、そして最後にはひっくり返した。
戦う集団になりつつある川崎フロンターレ。若き指揮官の下、勝ち続けることで「うまいチーム」から「強いチーム」にも変わりつつある。

提供元:Number Web

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